1. これから始まる。

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「今日からここが我が家か……」 愛知県某所。九月某日、午後四時過ぎ。 香山 晴(かやま はる)は古い引き戸の玄関ドアを後ろ手に閉め、自分の新しい居場所の空気を確かめるように深く息を吸い込んだ。 晴はこの日、同市内のマンションからここへ引っ越してきたばかりだった。 もう少し早い時間にこちらに到着する予定だったが、細かい掃除やゴミの処理に思いのほか時間を取られてこんな時間になってしまった。 単身の引っ越しが予想以上に大変だったことを思い知ったが、管理人に前の住居を引き渡し、新しい我が家に到着するとやっと気持ちが少し軽くなった。 新居はマンションや住宅が立ち並ぶ住宅街にひっそりと佇む築40年を超える木造の一戸建ての平屋だった。 玄関から上がると短い廊下があり、廊下を挟んで東側に風呂場とトイレ、物置があり、西側には居間と障子で仕切られたその奥に寝室がある。寝室と居間は南向きの縁側に面しており、居間の北側には台所があった。 室内の全ては純和風の作りで、リビングやキッチンといった呼び方が似つかわしい気がして晴はそう呼んでいた。 室内の雰囲気はどこか懐かしく、昭和の時代に遡ったのかのようにさえ感じられた。
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