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晴は最初何を言われたのか理解できずにキョトンとした表情で彼を見つめていた。
静かに響いた彼の言葉の余韻の向こうに、今まで耳に届かなかった蝉しぐれが聴こえてきた。
「……BAーCHAN……??」
半分開いた唇から片言の言葉が小さくもれた。
同時に、力の抜けた手からはスマホが滑り落ちて畳の上で鈍い音がした。
通った鼻筋、顔の印象を決める形のいい眉……優しい目元……。
見つめる彼の顔に晴のよく知る雨宮十和子の面影が見えた。
「…嘘でしょ? 十和子さんの……」
「孫だって言ってんだろ」
「そう……なの……」
晴は強張った笑顔を見せた。
十和子から孫の話を聞くこともあったのだが、話すたびに彼女の顔が綻ぶほど溺愛していたその孫はとても“可愛い”と聞いていたし、彼女の話ぶりから言っても、もっと幼い子供を連想していたのだ。
そのため、晴が思い描いていた彼女の孫の像と目の前の彼とが同一人物だとはすぐには理解できなかった。
仮に、以前に彼女から孫の話を聞いていないとしても、男の振る舞いと晴のよく知る彼女の所作とは似ても似つかず、晴はきっと同じ反応を示しただろう。
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