1. これから始まる。

23/41

1808人が本棚に入れています
本棚に追加
/83ページ
「だって、十和子さんはあくまでも私にくれるだけなんだから。私は毎月家賃を払ってだけ。私はここを譲ってもらったわけじゃないわよ?」 男は言われた意味がわかったのか一瞬黙ったが、すぐにまた晴を睨んだ。 彼の目つきは先程と大して違わないだろうが、十和子の孫だということで身元が判明したせいか、晴はその視線にも彼自身に対しても、もう恐怖は感じていなかった。 「アンタがここに住むなら同じだろ。俺の居場所はなくなる」 「居場所がなくなるって……自宅があるでしょ? 十和子さんがお孫さんは……つまりあなたね、たしか市内のマンションに住んでるって言ってたし。でしょ?」 「家だけあっても意味ねえだろ」 ……どういう意味だろう? 男の言葉に晴は首を傾けた。 「どういうこと?」 晴が尋ねると、彼はその言葉にではなく、自分のポケットの方に反応した。 彼がポケットに手を入れてから手を取り出し、喋り出すまでが驚くほど素早く、全部の動作がほぼ同時に見えた。 「ばあちゃん! どういうことだよこれ!? しばらく来ねえうちにどうなってるんだよ!?」 どうやら電話の相手は十和子らしかった。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1808人が本棚に入れています
本棚に追加