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「だって、十和子さんはあくまでも私に貸してくれるだけなんだから。私は毎月家賃を払って借りるだけ。私はここを譲ってもらったわけじゃないわよ?」
男は言われた意味がわかったのか一瞬黙ったが、すぐにまた晴を睨んだ。
彼の目つきは先程と大して違わないだろうが、十和子の孫だということで身元が判明したせいか、晴はその視線にも彼自身に対しても、もう恐怖は感じていなかった。
「アンタがここに住むなら同じだろ。俺の居場所はなくなる」
「居場所がなくなるって……自宅があるでしょ? 十和子さんがお孫さんは……つまりあなたね、たしか市内のマンションに住んでるって言ってたし。でしょ?」
「家だけあっても意味ねえだろ」
……どういう意味だろう?
男の言葉に晴は首を傾けた。
「どういうこと?」
晴が尋ねると、彼はその言葉にではなく、自分のポケットの方に反応した。
彼がポケットに手を入れてから手を取り出し、喋り出すまでが驚くほど素早く、全部の動作がほぼ同時に見えた。
「ばあちゃん! どういうことだよこれ!? しばらく来ねえうちにどうなってるんだよ!?」
どうやら電話の相手は十和子らしかった。
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