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「ありがとう、史月くん」
晴がスマホを差し出すと、彼はギョッとしたように目を見開いた。
「は? 史月くん…て……」
「名前、聞いたわよ? 素敵な名前ね」
“名前は、”と晴は密かに心の中で強調した。
「ちなみに、私は香山 晴」
晴が自己紹介をすると「聞いてねえし」と睨まれた。
確かに、もう会うこともないのだから言う必要もなかったか、と晴は思ったが、彼の名前を知った以上、そうするのが一応の礼儀のような気がした。
「それより、十和子さんの引っ越し先ってどこ? 私、引っ越し先の住所とか聞きそびれちゃってて……。娘さんとの同居のために引っ越したのよね? 娘さんがいるなら安心だけど、私にもできることがあれば何かしてあげたいし」
晴の引っ越しについて親身になって相談にのってくれた十和子だが、自分自身の引越しについては行き先を含めてあまり多くを語らなかったので晴は十和子の方の事情をよく知らなかった。
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