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「へえ……」と史月は意味深な目で晴を見た。
「私も契約書を交わすのに顔を合わせた後は電話のやり取りばかりで十和子さんにしばらく会ってないのよ。お互いに引っ越しの準備があったしね。今回引っ越しも無事に終わったし、御見舞いも兼ねて会ってお礼もしたいから」
十和子のために何かしたい、という晴の思いは史月にも伝わった。
「……そう思ってるとこ悪いけど、そりゃ無理かもな」
「どうして?」
「ばあちゃんの引っ越し先、長野だし」
史月がなんでもないことのようにさらりと言った言葉に晴は思わず叫んでしまった。
「長野!?」
十和子から詳しく聞いていたわけでもないのに、またすぐに会える距離にいるものだとばかり思い込んでいた。十和子は電話の向こうで苦笑いを浮かべながら話を聞いていただろうと今更ながら晴は思った。
「そんなに遠いなんて聞いてなかったけど……まあ、そうね、長野なら…特急ですぐに行けるしね」
「めっちゃ北の方だけど」
「北……」
晴は長野県の縦長の地形を思い描き、自分が思っていた倍以上の時間がかかると予測した。
「……行けない距離じゃないし」と晴は自分に言い聞かせるように言った。
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