1. これから始まる。

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「さて……」 そう言って晴は深呼吸を交えて気落ちを落ち着けようとした。 「十和子さんと話もできたし、これで納得できたでしょ? わかったら……」 「納得してねえし」 「……してない? ってなんで!?」 まさかの返事が返ってきたので、晴は自分でも自覚するくらいの崩れた顔で史月を見た。 「ばあちゃんが引っ越したら、俺がここで暮らせるって思ってたんだよ。……予定狂いまくりじゃねえか。困るんだよ……」 「困るって言われても……」 こっちが困る。 晴は心の中でぼやいた。 しかし、一方で自分が悪いことをしているわけではないはずなのに、胸の中に罪悪感のようなものが漂うのはなぜなのか。 いや、それは気のせいだ。気のせいだと信じたかった。 晴は細かく首を横に振り、そして頷いた。 史月はそんな晴を奇妙な目つきで見ていた。 「……悪いけど、私はここ以外に家はないの。ちゃんと契約もして引っ越してきた。だからわかって欲しい。何か困るなら……十和子さんのお孫さんだし、私で何かできるならなんとかしてあげたいけど……」 悪いけど、なんて前置きをしている時点で罪悪感を拭いきれていないのは明白だった。 「まあいいや」 晴の言葉を聞くと、史月の方は意外にもあっさりと引き下がった。 ……ように見えたのだが、その後には続きがあった。 「貸主は俺のばあちゃんなんだし、俺は大家代理ってことで」 史月はポケットからこの家の鍵を取り出して言った。
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