1. これから始まる。

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「大家代理……?」 晴は彼が手にする鍵を見つめて別のことを考えていたのでぼんやりとした口調で言った。 「そりゃそうだろ。この家に何かあってもばあちゃんはすぐに来られないんだし。まあ来たところで何ができるってわけでもねえけど。実際、今までも庭の手入れとか棚の補修とか俺がやってたし」 「史月くん、そんなこともできるの?」 「ばあちゃん一人じゃ無理だろ。古い家だしいろいろあるんだよ」 「へえ…おばあちゃん思いなんだ? ちょっと見直した」と晴は素直に彼に微笑んだ。 「だけど、私はこの通り若いんだし大丈夫よ? 自分でできることはやるつもりだし、家の補修に関わる費用は十和子さんの方で持ってくれる約束なの。専門業者を頼んだ場合も費用請求してくれればいいって十和子さんが言ってたし」 そのことは契約書にも盛り込んであった。個人間の契約なので、二人で決めた約束事がわかりやすく率直に記載してある。 「……大丈夫、ね」と史月はなぜか部屋を見回しながら意味深に言った。 「アンタ、ゴキブリは平気?」 「え!?」 晴は思ってもいないワードに体を強張らせた。
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