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その後に響いた晴の悲鳴が、近所まで届かなかったことを祈りたい。
晴は史月の背中にしがみつき身を隠すように小さな身体をさらに縮めて思い切り叫んだ。
「捕って、捕って、捕って!!!!!」
彼のTシャツを握りしめる手に力が入った。しかし、そんな力んだ晴れとは対照的に、緩んだ息が晴の頭上に浴びせられた。史月が唇の端から笑いを漏らしていた。
「……嘘」
彼の言葉に晴は顔を上げた。
「嘘って何!? やめてよね! 私、嘘つきはゴキブリと同じくらい嫌いだから!!!」
晴は顔を真っ赤にして怒ったが、大嫌いな生物の名前を口にして一瞬にして気分が悪くなった。
そして、いつの間にか彼のTシャツを握り締めたまま彼の背中に寄りかかっていた。
そのことに気が付いたのは、頭上から心配そうな史月の声がするのに気付いた時だった。
「おい、大丈夫かよ?」
「あ……ごめん」
Tシャツから手を離し、彼の背中から離れた。
改めて彼の背中を見上げるとずいぶん広い背中だった。長身なので晴が掴んでいたTシャツは彼の腰の辺りになるだろうか。両脇にくっきりと皺が残っている。
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