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「昔は引っ越ししたらご近所に蕎麦を配る風習があったみたいよ? 今はそんなのなくなってるけど、蕎麦みたいに“長いお付き合いをお願いします”“そばに越してきました”って気持ちを示したのね」
晴が言うと史月がじっと見つめてくる。
「ギャグかよ」
「昔の人の粋な心遣いよ」
晴は訂正して冷えた蕎麦をまた一口すすった。
いつも一人で食べる時よりも麺にコシがあり、本当に美味しかった。
「最高♡」
晴は無意識に今日一番の満面の笑みを見せた。
「十和子さん、長野に引っ越したなら蕎麦処じゃない。いいなぁ美味しいお蕎麦食べ放題ね。私、行ってみたいお蕎麦屋さんがあるんだよね。十和子さんに会いに行くなら行ってみようかな」
晴の独り言のようなそうでないような言葉を史月はぼんやりと聞いていた。
「……“長い付き合い”……」
晴が蕎麦を堪能する向かいで史月は長い麺を箸でつまみ、それを眺めてから彼もまた一口蕎麦を頬張った。
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