恋とか愛は、背伸びのあとで。

1. これから始まる。

新居に到着したら連絡をする約束していたことをすっかり忘れていた晴はまずは相手に謝罪した。

どこまでを持ってして“終わった”とするかは人それぞれであろうが、晴の場合は全ての荷物と一緒に無事に新居に到着しているのでそれでよかった。
山積みの段ボールを横目に『ご心配をお掛けしてすみません。無事に終わりました』と返事をした。

『良かった』と相手は安堵を示してから『何か手伝えることがあれば遠慮なく言って』と返信してきた。
晴はその優しさを噛み締めながら『ありがとうございます。これから荷解きを頑張ります！』というメッセージと共に力こぶの絵文字を送り、気合を示した。

すると、相手からは『怪我しないようにね』と再び優しさが返ってきた。

メッセージの往来が落ち着くと、晴はスマホを畳に伏せ、自分も畳の上で横になった。
メッセージを送った相手に示した気合いとは裏腹に、晴は未開封の段ボールには目もくれず、再び縁側の外へ視線を向けた。

開け放たれた縁側からは、猛暑だった夏から脱皮でもするように、熱気の和らいだ風が緩やかに流れ込んできて、新しく張り替えられた畳の青い匂いが鼻をくすぐった。