恋とか愛は、背伸びのあとで。

2. 大家代理

そして、土曜日。

この日は正木との食事の約束の日だ。

仕事帰りに最寄りの駅まで正木が車で迎えにきてくれることになっている。
正木は会社まで来てくれると言ったが、絵理奈のように変に勘ぐる社員が他にいるとも限らない。いや、詮索しない者の方が稀(まれ)かもしれない。
その為、晴の意見で駅での待ち合わせとなった。

仕事が終わり、晴はロッカールームで髪やメイクを整え始めた。
別に気合を入れているわけではない。メイク直しはマナーだと自分に言い聞かせながら最後にリップを唇に乗せた。

靴はいつもは４センチか５センチのヒールものが多いが、今日はいつもより高めの７センチのヒールだ。
ヒールの先端が細いせいか、いつもより靴音が軽い気がした。

駅に到着し、すでに来ていた正木の白いSUV車を見つけると晴は車に駆け寄った。

駅のロータリーにハイヒールの軽快な音がリズミカルに響いた。