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後部座席の運転席の後ろ側にはチャイルドシートが装着されている。
「ああ、光太郎ならいないよ。今日はたまたま母に見てもらってるんだ」
正木はバックミラー越しに後部座席に視線をやった。
「そうですか……」
晴は返事をしながら身体を助手席のシートに埋めた。
正木はいわゆるシングルファーザーだった。
彼には三歳になったばかりの一人息子の光太郎がいた。
妻の浮気が原因で離婚協議中であったが、今年の二月に離婚が成立し、光太郎は正木の方が引き取ることになった。
正木が転職した理由はそこにあった。
残業も多く、土日に休みの取りづらいハウスメーカーの営業では父親として十分な育児ができないと判断した正木は、独立の道を選んだ。
今はこれまでの経験を活かして“ヒカリ不動産”を立ちあげ、不動産仲介業を営んでいる。
光太郎とは晴は何度も顔を合わせている。
特に正木の退職が延長されてからの期間は正木と一緒に行動することが多かったため、仕事の合間に光太郎を保育園に迎えに行き、正木が施主との打ち合わせをしている間、晴が光太郎の面倒をみることもあった。
そのため、今では晴によく懐いている。
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