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正木と晴が入ったのは小さな居酒屋だった。チェーン店ではなく、年季の入った暖簾を下げた個人店だった。
店の奥のカウンターの端に席が予約されていた。
「こういうところ久しぶりだよ」
腰を下ろし、おしぼりで手を拭きながら店の空気を楽しむように正木は明るく言った。
「光太郎といるとどうしてもファミレスとかそういうところが多くなっちゃうから」
「なのに、よかったんですか? 車……」
「いいんだよ。どうせこの後光太郎を迎えに行かなきゃならないし、元々お酒に強い方じゃないしね。知ってるでしょ?」と正木は晴の顔を覗いた。
正木が言う通り、彼は酒に強いとは言い難かった。
「その代わりに香山さんが飲んでよ。好きでしょ?」
好きでしょと言われてそれに反論する気はなかったが、それではなんだか申し訳がない。しかし、正木は気にする様子もなく、自分はノンアルコールのビール、晴には生ビールを注文した。
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