1. これから始まる。

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晴は懐かしい匂いに浸るように目を閉じると家の中の静けさにしばらく耳を澄まし、その後外の音に耳を傾けた。 聞こえてくるのは風に揺れる木の葉の音とどこかの軒先で鳴る風鈴の音。遠くで聞こえる電車や車が走る音はそれらの音色を邪魔するものではなかった。 「平和だな……」 晴は独り言をもらした。 心がほぐれて、身体からも力が抜けていく。 晴はふと“安らぎ”という言葉を思い出した。ここ数ヶ月……こんな状況とは無縁でそんな言葉の存在さえも忘れそうになっていた。 晴は目の前の光景をぼんやりと見つめながら深呼吸をした。 「今日からはゆっくり眠れそう……」 引っ越しの準備を始めてからは特にだが、ここのところ少し寝不足が続いていた。 部屋に積まれた段ボールを気のない視線で見つめ、荷解きをしなければならないと思う一方、明日も休みだという事実がその義務感を緩ませる。 波のように押し寄せる眠気に心地よく吹き抜ける風の相乗効果も相まって、晴はいつの間にか瞼を閉じていた。
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