1832人が本棚に入れています
本棚に追加
/85ページ
仕方なく自分も正木から顔を背けるように自分の足元を見た。
「踵が何かにハマっちゃって……」
二人で見ると、晴のヒールの先がアスファルトに出来たひび割れにはまっていた。
晴を支えたまま正木はそれを外して、晴に靴を履き直させた。
「よかった。靴は傷ついてないみたいだよ。しっかし、こんなの履いてよく歩けるよね。女性を尊敬するよ」
「私はいつも履いてるわけじゃないんですけどね」
晴はそう言いながら再び正木から離れようとしたが、緩んだはずの正木の手にわずかに力が入った。
そして、正木は「そういえば」と呟いた。
「香山さんの顔が……いつもより近く感じる」
視線を上げればすぐに正木の顔がある。
確かに、今までで一番近い距離感だった。
一度目を逸らしたものの、正木が黙っているので再びゆっくりと視線を戻すと、晴の視線の高さに正木の唇があった。
その唇がかすかに微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!