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正木の唇から慌てて目を逸らし、視線を上げると正木と目が合った。
正木は今までに見たことのない瞳で晴を見つめていた。
時間が止まったのかと思った瞬間、すぐ近くの店からなだれるように出てきた若い男女の声が響いた。
「次どうするー!?」
「あそこ行こうぜ、あそこ、駅前の」
「いいね、行こ、行こ!」
アルコールの絡んだ大声は急に辺りを騒がしくした。
晴と正木は咄嗟に離れた。すると、二人に気づいた若者たちが近づいてきた。
「あれ、すんません! 今、いいとこでした??」
「邪魔してすみませんっ!!」
グループの中にいた男たちが二人に絡みはじめた。
「わっ! お姉さんカワイイ!!」
「二人はもしかして今からーーー!?」
「お楽しみーーーー!」
声が大きい上に、誰かが喋ればそれに対して合いの手を打つように周りが大声をあげて盛り上がっている。
「ちょっと静かに。声が大きいから周りに迷惑よ」
たまらずに晴が言うと正木は咄嗟に晴の腕を掴み「行こう」と歩き出した。
「大きいと言えば!?」
「お姉さんのおっぱいーー!」
「お兄さんうらやましい!!!」
「俺と代わって!」
後ろを振り返ると、彼らが道路にひろがって大袈裟なジェスチャーをしながらゲラゲラと笑う姿が見えた。
一緒にいた女子たちが「バカじゃないの」と冷めた言葉を吐くのを聞いて晴は前を行く正木の方へ顔を戻した。
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