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そして、しばらく無言のまま車は晴の家に到着した。
「……ありがとうございました」
シートベルトを外し、シートの中で晴は姿勢を正した。
「こちらこそ、今日はありがとう。楽しかったよ」
「私の方こそ……楽しかったです。ご馳走様でした」
別れ際の挨拶をしながら、家に着いてホッとしたような……がっかりしているような、晴の胸の中では複雑な気持ちが入り混じっていた。
そして、車から降り、最後に“おやすみなさい”という場面になって晴はその体勢から意外な言葉を口にした。
「正木さん、少し……寄って行かれますか?」
今度は正木の方が言葉を失った。
「え……っと……」
「私ばっかり飲んじゃって……美味しいハーブティー冷やしてあるんですけど……よかったら」
正木の返事が返ってくるまでに数秒間を要した。
「……いいの?」
正木は晴がゆっくり頷くのを見て車のエンジンを停止させた。
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