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正木の顔から表情がなくなった。
オッサンと呼ばれたことに腹が立ったわけじゃない。
晴との関係を見透かされたことが気に入らなかった。
「そうじゃないけど、親しくさせてもらってるよ」
正木は答えたが、彼がまだ言い終わらないうちに史月は口元に笑いを浮かべたまま立て続けに口を開いた。
「ハーブティーって。 俺がいなかったらヤるつもりだったんだろ?」
正木は史月の後頭部で跳ねる寝癖を見つめながら奥歯を噛み締め、鼻から乾いた笑いを漏らした。普段は柔和な彼の口角の片方が歪に曲がった。
「……君たちはみんな同じこと考えるんだな? まあ……そういう時期といえばそうかもしれないけど」
街で絡んできた男たちと史月はまさに同年代だった。
「そういう稚拙な発想に彼女を巻き込まないで欲しいな」
正木は大人として子供に言い聞かせるように言ったつもりだが、子供に向けるような笑顔は頑張っても出てこなかった。口元では微笑みかけたが目が笑っていなかった。
「先行くよ」
正木は史月の横を抜けて晴のいる奥へ向かった。
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