3. 男の勘

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「お邪魔します」 正木は台所でグラスにお茶を注ぐ晴に改めて声をかけた。 「すみません、驚かせちゃって」 「まあ…確かに驚いたよね」 「はい……。驚きすぎて、酔いも冷めちゃいましたよ」 晴の台詞に正木はついさっきまで温まっていた二人の夜まで冷めてしまったような気がしてしまった。 「……素敵な家だね。何だか懐かしい感じがするよ」 正木は気を取り直して言った。 わざとらしく家の中を見渡したりなどしてみたが、家具を含めた家全体から感じる雰囲気の良さも、懐かしい感覚も嘘ではなかった。 「そうなんですよ。すごく素敵な家なんです。古いけど十和子さんが綺麗に手入れもしてくれてたから住み心地もすごくいいんです」 「そっか、良かったね」 正木は返事をしながら、十和子の名前が出たので彼女のことを思い出していた。身なりもきちんとしていてセンスがあったし、口調はゆったりとしながらも明瞭で、仕草も雰囲気も上品な女性だった。 大家代理のは、晴の話では確か十和子の孫のはずだったが…… 思わず首を捻ったが、「正木さん、あっちに座ってください」と急に晴に声を掛けられ、慌てて首をまっすぐに戻し、隣の和室に移動した。
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