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「どうぞ」
晴がハーブティーを出してくれた。透明なグラスの中で薄い金色のお茶が少し溶けた氷を泳がせている。
ちゃぶ台の上のペンダントライトがどこかのバーさながらにグラスを照らし、柔らかい灯りが氷の表面で反射していた。それがハイボールにも梅酒ロックにも見えなくはない。
正木が晴を見つめると彼女ははにかんだ笑顔で彼を見つめ返した。
晴はちゃぶ台の向こうに座る正木の姿に違和感を覚えながら、改めて自分の家に正木を招き入れたことの恥ずかしさと緊張に襲われていたのだった。
正木はハーブティーのグラスで再び晴と乾杯したい気分だった。
そうして、その後どちらかが口を開けば、また二人の夜が再開するような気がした。
しかし、そうはならないことはわかっていた。
“あの男”がいる限り。
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