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硬くなった晴の手を正木の手が包んだ。
晴が視線を揺らしながら正木を見下ろすと、自分を見上げている正木と視線が絡み合った。
晴は全身の神経が全て自分の指先の方へ集中していくのがわかった。
正木の指が晴の手の形を確かめるようにゆっくり動いた。
その刺激は今の晴にとっては全身を撫でられるのと同じようなものだった。
「正木……さん……」
小さく開いた晴の唇から自分の名前とともにかすかに濡れた息が漏れると、正木の中で抑えていた何かが我慢出来ずに溢れてくる。
こんなはずではなかったのに、これ以上何ができると言うわけでもないのに正木は晴の手を離すことができなかった。
そう、これ以上何もできないのは嫌でも視界に映り込む、史月の存在のせいだ。
しかし、その一方で、本来は第三者の存在は抑制作用があるはずなのに、なぜか彼の場合は自分の気持ちを煽ってくる。
彼が視界に入るたびに、晴ともっと近づきたいという欲求が正木の中には膨らんでいった。
「香山さん……」
正木が晴の名前を呼んだその時、二人の鼓動と史月の寝息とは全く別の音が静かな部屋に響いた。
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