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「光太郎くん……何かあったんですか?」
「……そう。やっぱり帰るって泣き出してるって、母親から」
正木は肩を落としたが、その理由は息子の初めてのお泊まりというチャレンジが失敗したことよりも、今自分がこの場から退去しなければならなくなったことへの落胆の方が大きかった。
最愛の息子が帰りたいと泣いて自分を呼んでいるのに、自分はここから帰りたくないなどと思っている。そんなの……
「ダメだよなぁ……」
自分自身に呆れた正木が思わず呟くと、晴は勘違いをして正木に真剣な表情で迫った。
「そんなこと言わないで下さい。光太郎くんも頑張ってチャレンジしたんですから。結果的には今日はダメだったけど、いつか一人でお泊まりできるようになりますよ」
晴の言葉に正木は今度は肩を落とすのではなく、肩の力を抜いて小さく笑った。
その言葉を今夜の自分のことを言われているように都合よく解釈したからだ。
「ありがとう。そうなることを期待してるよ」
正木はいつも通りに微笑むとスマホを持って立ち上がった。
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