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さっきまでの幸福感から一転した今の状況が信じられなかった。
「お願い…来ないで……」
晴は這うようにして部屋の隅まで行くと茶箪笥にもたれた。立ち上がろうにも腰が抜けてそれが精一杯の避難だったのだ。
そんな晴を見下ろす男は、晴が縮こまっているせいか巨人のような大男に見えた。
その大男が急に膝を折って晴の視線に合わせるようにしてしゃがみ込んだ。それでも長身のせいか晴は男に見下ろされていた。
「まだ死にたくない……」
形のいい大きな目に涙を浮かべると、滲んだ視界の中で目の前の男が急に焦った顔を見せた。
「は? 泣いてんじゃねえよ。死ぬわけねえだろ」
「……殺さ……ないの?」
「殺さ……って、俺のことなんだと思ってんだよ?」
「……強盗……」
「は? テメ……ふざけんなよ」
男が顔を突き出すので、晴は自分の顔を手の平で覆いながら「ふざけてません!」と叫んだ。
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