3. 男の勘

15/48
前へ
/281ページ
次へ
玄関で靴を履きながら、正木はまだ奥にいる史月のことが気になっていた。 「甘やかしすぎないこと。いいね?」 晴はそれを聞きながら口元がムズムズと動いた。 正木が普段どれだけ光太郎を甘やかしているか知っていたからだ。 それでも笑いをこらえて「わかりました」と返事をした。 そして、返事もそこそこに「あっ」と声を上げると晴は台所へ走り、何やらバタバタと急いで戻ってきた。手にはコーヒーショップの紙袋を握っている。 「これ、光太郎くんと一緒に食べてください」 正木が紙袋を覗くと中身は本日史月が受け取ったというシャインマスカットだった。 正木はお礼を言って受け取ると、「今度、光太郎と一緒に来させてもらっていいかな?」と名残惜しそうに今までいた居間の方を見た。 「もちろんです」 晴の笑顔を見て正木はやっと帰る決心がついたらしく、彼らしい笑顔を見せた。 「じゃあ……おやすみ」 正木は別れ際に再び込み上げてくる男としての感情を抑え、父親として光太郎の迎えに急いで向かった。
/281ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2596人が本棚に入れています
本棚に追加