初めての夜 授久side

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初めての夜 授久side

「なんか……緊張しますね」 ベッドに座った彼女が、フワッと俺と同じシャンプーの匂いを香らせながらそう呟いた。 「寝室入ったの、初めてだっけ?」 そう聞くと、梓葉がコクンと遠慮がちに頷いた。 ヤバい。 正確には、もうずっとヤバい。 この日のことを、ずっとシュミレーションしてきた。梓葉が卒業式を終えたら必ずプロポーズすると。 そして、この卒業の日に、梓葉をうちに泊めてもいいかと梓葉のご両親にも前々から許可を取っていた。 それに、女の子と同じ部屋で一夜を過ごすなんて、梓葉と出会う前から日常茶飯事だったはずだ。 なのに……。 こんなに緊張するなんて。 いや、聞いてない。 どうにか普通を装っているけれど、動きがぎこちなくて梓葉にばれていないか心配だ。 気持ちがあるのとないのと、こんなに違うんだって。 28にして気付くなんて、恥ずかしすぎるし、どうしようもない。 梓葉が家から持ってきた、可愛らしいパジャマ。 梓葉が、お風呂から出てきてすぐ「今日の日のために買いました!」なんて可愛いこと言っていたっけ。 「電気、消すよ?」 そう言っても、梓葉は声を出さずにコクンと頷くだけ。 さっきまで、プロポーズされて泣いて少したったらリングを見て「綺麗だ、綺麗だ」と騒いでいたのに。 寝室に入った瞬間、こんなにわかりやすく大人しくなられちゃ、こっちだって色々限界なわけで。 枕元にある小さなライトだけつけた薄暗い部屋は、俺と梓葉のシャンプーの匂いが広がっているだけ。 前に『矢吹さんとならいいですよ』なんて生意気なことを言っていたくせに、いざこう言う空気になると、こんなに戸惑うんだもんなぁ。 梓葉がその気じゃないなら、俺はいつだって待ってやる自信はあるし、……いや、やっぱりそれは嘘だ。いつだって我慢している。 止められなくなる前にっていつだって制御しているし、本当はいつだって今まで以上に触れたくってたまらなかったんだ。 薄暗くなった部屋のベッドにちょこんと座る梓葉の隣に腰掛けると、ビクッと梓葉の身体が反応したのがわかる。 「なに、梓葉、緊張してんの?」 あまり顔が見えないことをいいことにそんな風にからかってみる。自分だって十分ドキドキしてるくせに。 「矢吹さんはこういうの、慣れてるかもしれないですけど、私は初めてなんで。……好きな人と、その……」 「俺だってこんなに好きになったの梓葉が初めてなんだから、慣れてないよ」 「嘘!絶対慣れて──っ、ちょ、」 彼女のうるさい口を黙らせる方法はこれしかない。 俺だって、もう限界なんだから。
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