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 私は奇術師だ。 敢えて名前は言わない。 私がどこの国の人間なのか、どの時代を生きたのか、この話の中で一切触れることはないだろう。  ただ一つ何か言うとすれば…… 私のトレードマークは、この白い仮面だ。目と口が三日月のように細くにっこりしているが、見る者に優しい印象を与えるとは言い難い。 その点を逆に気に入っている。  その日は、ある大きな公園の野外ステージで、奇術師仲間と手品をいくつか披露していた。前半のショーが終わり、小さな楽屋に戻った。助手のフランソワーズが後半で使う小道具を準備しているのを尻目に、楽屋からこっそり顔を出して会場を見渡した。前もって宣伝していたおかげで、観客はちらほらいるが、まだ満席ではない。もう少しだけ客を呼び混んでくると告げ、私は公園を出て路上で宣伝し始めた。
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