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II
私は路上で宣伝をしながら、次の手品の準備をしている真っ最中だった。そのとき突如子どもの叫び声が聞こえた。
「申し訳ございません、旦那さま!」
視線を向けると、そこには使用人とその主人が何やら問題を起こしている最中だった。
「この馬鹿野郎! 何でこんなこともできないんだ!」
旦那さまと呼ばれるその男は、まだ十才にも満たないであろうその使用人を、ステッキで血が出るんじゃないかと言うくらい叩いていた。男の身体はトドのように巨大で、その怒鳴り声を耳にした人々は顔をしかめている。
私はちょっと気になって、その男に声を掛けた。
「そこの旦那、一体どうしたって言うんです?」
男は獰猛な獣のような目で私を睨みつけた。殴りかかってくるだろうか……少し身構えたが、予想に反して彼は大きなため息をついた。
「コイツ、何度言っても使えないんだ。どこかに売り飛ばしてやろうかとすら思っているよ。雇うだけ、金の無駄だ」
「へぇ、それは大変だ……そうだ、旦那」
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