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* ◇ ◇ ◇
そして振り向いた首をもとの方向に戻す。
……アレ?
「グボ?」
「へ?」
バリバリボリボリバリバリボリボリ……
………
…
チュンチュン、チチチ……
………
…
「おろ? おろろろろろ?」
………あ、朝ぁ?
「オイ、起きてっか?」
「ほんぎゃあぁああァ!?」
「うおっとおォ!?」
一瞬、オイ今度は何だよオイふざけんなよオイコラと思ったがフツーにさっき掘ったかまくらっつーか穴ぐらの中だった。
イキナリ話しかけて来たのはもちろんワンコだ。
「何だよ、その生まれたての赤ちゃんみてーな反応はよ」
「ぬははは」
「ぬははじゃねーよ」
いやーそれにしてもこっ恥ずかしいリアクションをかましちまったぜい。
まあ取り敢えず夢だったって体で話してみっか。
ワンコも共通の体験をしてたって可能性もあるしな。
「あー、ちょっと変な夢を見てただけなんだぜ」
「どんな夢だよ」
「まずな、俺らはどっかの小ぎれいなアパートに住んでたんだよ」
「俺ら?」
「おう、オメーもいたぞ」
「マジでぇ!? キモッ! やだヘンタイ!」
「ワンコにまでヘンタイ認定されるなんて思っとらんかったわ!
つーかどこがどーなったらコレでヘンタイなんだよ!」
「何で俺がオッサンと同じアパートで暮らさにゃならねーんだよ!」
「知るか! 夢だっつっただろ! だいいち今だって同じ部屋にいんだろーがよォ!」
「一緒にすんな! アホか!」
てな感じでグダグダになりながらどーにかこーにか説明したが、どーやらこっちのワンコはあっちのワンコとは違うワンコみてーだぜ。
つーかさっきのアレはホントにただの夢だったのかもしれねーなあ。
最近あちこち飛ばされ過ぎて感覚がおかしくなってたんだな、きっとそーなんだぜ。
そーだなんだぜ。
「何遠い目してんだよこのヘンタイおじさん」
「ヘンタイゆーなこのワンコロめ」
外に出て周囲を確認……うーむ……
何も変わってねぇな。
「コレも夢だったら良かったんだけどなぁ」
「やっぱ何とかして登るしかねーんじゃね?」
「どーやって?」
「オメーなら登れるんじゃね? 俺よか身軽だろ。
んで助けを呼んでもらうとかよ」
「イヤ無理だって。出口んとこがネズミ返しみてーになってんだぞ、そこをどーにかしてクリアしねーと無理だぜ。
真っ逆さまに落ちてなんちゃらだぞ」
「なんちゃらって何だよ」
「[ピー]だっちゅーに……察しろ!」
「その辺の骨で登山具でも作ってみっか?」
「どーやって加工すんだよ」
「じゃあ雪を積み上げて斜面でも作るか?」
「さすがに足りねーだろ、10mじゃきかねーぞ、
それにそんな大量に雪を運ぶんなら重機がねーと無理だろ」
「じゃあどーすんだよ」
「せっかく明るくなったんだし地面とか壁を当たってみた方が良くね?
あとよじ登るんならあそこの出っ張りが良いかもな」
「あーアレか。アレなら上によじ登れっかな」
「んじゃそゆことで行こーぜ」
「了解」
うーむ……とはいえ何のあてもなく探すのもなあ。
ゴリラのガイコツといい、立て続けに見たアレは何だったんだ?
ここで起きた何かに関係がある……?
「まずは昨日のガイコツが立ってた辺りを掘ってみよーぜ」
「まあ当てずっぽで掘るより良いか、分かったぜ」
てな訳でざくざくと雪を掘り返してみる。
あの貼り紙の切れっ端みてーなのが出て来たのがどーも気になるんだよな。
「何だこのマーク?」
「あん? こりゃ例のレリーフか?」
「例のって?」
「羽根飾りのマークだよ」
「あん? ああ、オッサン家の台所の床下収納から地下に潜るときに出て来た奴か」
ん? あー、コイツは詰所のドアか?
「なあ、まわりの雪もどけてみよーぜ」
「おう」
更にざくざく……
「お?」
「何か平らな床みてーなのが出て来たぞ……?」
「床っつーかドアっつーか外壁とドア?」
「あー、コイツはここにあった詰所か。やっぱりそーだ」
「昨日おっさんが言ってた建物か。しかし丸ごと残ってんのか。
なあ、ここにでけぇ建物が建ってたんだろ。そいつが跡形もなくてその詰所がまんま残ってるっておかしくねーか?」
「確かになあ」
更に雪をどけると壁面がほぼ全てあらわになった。
コレ、まるっとそのまんま残ってね?
オマケに中がどー見てもノーダメだし。
それどころかハコが横転してんのに机も電話も元の場所にくっ付いてんのは何なんだ……
「この小屋ってよ、元は敷地の端っこっつーか正門の脇に建ってたんだよな。
それがど真ん中に空いた大穴の中にあるっつーことは、何かにふっ飛ばされるか何かでここまで落っこちてきたって考えんのが妥当か……」
「その敷地ってのは広いのか?」
「おう、この穴の底の面積の10倍はあると思うぜ。
仮にここが建屋の真下だったとすっと……」
「待て、ここがその親父さんの会社の跡地だって決まった訳じゃねーだろ。
この穴がどこに空いてるモンなのかなんて出てみねーと分かんねーだろ」
「オメーたまに良いこと言うよな、ワンコのクセしてよ」
「しかし思ったんだけどよ」
「ん? もっとホメて欲しいってか」
「いやな、コイツがその詰所って奴なら一生懸命になって中に入っても結局、外にゃ出れねーんだよなぁと思っただけなんだが」
「オメー今日はマジで冴えてんな」
「いやフツーに気付くだろ、気付かねえオッサンがボケ過ぎなんだよ」
「な、何をぅ……」
クッ、言い返せねえ!
確かにその通りだぜ!
羽根飾りさえありゃこのドアをピッとして開けて、なんて考えてたけど入ってどーすんねんて話だわ、確かに。
しかしこの真上にゴリラのガイコツか……
思えばあのゴリ先生もこの詰所の中にいたんだよな。
あの貼り紙を手に持って俺に逃げろっなんてアピって来たくれーだし……
でも何だろーな……中の人が違うっつーか、そもそも今俺がいる場所とあの時の血濡れの事務所とじゃあ何かが決定的に違うんだよな……
ホント何だろーな、この違和感……
「オイオッサン、ボーッとしてるくれーなら次行こーぜ次」
「だな、早く出ねーと飢え死にしちまうからな。体力のあるうちに何とかしねーとだぜ」
「まあ水分は雪食えばどーにかなるが……」
「俺が立ちションした場所は押さえとけよ」
「ったりめーだこの立ちションおじさんめ」
俺が立ちションしてた辺りはやっぱ俺が見なきゃアカンよなあ。
「済まんオッサン、もう一個あるんだがよ」
「何だ?」
「ここに窓があんだろ、ヒビも入ってねーのっておかしくね?
あと中が全く散らかってねえっつーか机も椅子も直角に床から生えてんのは流石に何じゃこりゃ事案だよな」
「うーむ……この穴の外に出るっつー目的から脱線しそーだしあえて言ってなかったんだがなあ」
「で、オッサンの見解は?」
「コイツは作りモンで誰かがわざわざここに置いた。
あるいはだいぶ前に誰かが置いたけど穴が開いたときにここに落っこちて来た。
こんなとこか」
「誰かって誰だよ」
「知らん。誰かっつったら誰かだ」
第一羽根飾りが無きゃ入れねえし……って電源も何もなさそーだしピッて出来んのかすら怪しいけど。
ポケットから薄い木箱を出してしげしげと眺める。
例のうっすい羊羹の箱だ……ん?
「おろ……?」
フタが空いちまったぜ……
しかも……羽根飾りもしっかりあるぜ……
「おいオッサン、これ持ってるんならもっと早く出せよ」
「そ、そーだな」
何でだ?
いつからあった?
コレって元はといえば推定俺ん家から持ち出した奴だけど、そんときゃフタは本体と一体成型みてーになってて作りモンって感じ満載だったぞ?
「オッサン、開けられんなら話は別だ。中に何か役に立つモンがあるかもしれねーしな」
「ああ、何で動いてんのか分からんけどシステム? が生きてたら入れるかもな」
「しすてむ?」
「言葉のアヤだっつーの」
「そ、そーか」
どれ、と羽根飾りを箱からつまみ上げてレリーフにかざす。
「ピッ」
「ガチャッ」
「……開いたな」
「入るか」
俺は入り口の縁にぶら下がってヨイショと反対側の壁に着地した。
元々そんなに広い小屋じゃなかったから何とか降りれたぜ。
さて……
「オイ、良いぜ」
………
…
「オイ、聞いてんのかって……閉まってるゥ!?」
クソ……流石に天井っつーかドアノブまで手が届くほど近くはねーぞ……
つーかどーすんだコレ。
穴の底から脱出するどころかさらにその中のハコに閉じ込められちまったぞ。
ワンコじゃ外から開けれねーし、こりゃ詰んじまったぜ。
さっきの冗談がフラグだったか……
何とか窓から……って無理だよな。
外は見えてるし中はいつぞやのモニター室じゃなさそーだし、詰所に入った瞬間またどっかに飛ばされたりってのは無かったみてーだ。
どーしたもんかな……
あ、そーだ。連絡通路か物置部屋から出られるんじゃねーか?
外が雪ならワンチャン掘って進めるだろーしな。
連絡通路、は……岩盤……? 何でだ?
じゃあ物置部屋も望み薄か……
まあ良い、気を取り直して……良し、ドアには何とか手が届くぜ……
「ガチャ……キィ……」
おお、開いたぜ……!
どうにかよじ登って物置部屋に滑り込む。
おお、パイロンとかスコップ(大きいやつ)があるぜ……!
でもって奥に見えんのは……隠し小屋に続くドア!?
いや、前も変なとこに飛ばされてなかったらあったのかもしれねーが……
とにかく行ってみっか……
「ガチャ」
良し、開いた!
うお、真っ暗だ……って当たりめーか。
こりゃ手探りしながら進まねーと危ねーな。
ん?
……何だこれ……?
箱? しかもかなりでかいぞ?
何かツルツルした手触りだ。
棺桶? いや違うな、木とかそういった類のモノじゃねえ。
近ぇのは……ガラスか……
しかし親父がいた頃にこんなモンあったか……?
* ◇ ◇ ◇
手を伸ばせる範囲で確かめる。
多分だけどこの箱、継ぎ目が全くねぇな。
まあ裏側に回りゃ何かあんのかもしれねーが、こんなのともかく親父が個人でどうこう出来るシロモンじゃねえよな。
そもそもここにはベニヤ板の棚と親父が自作してたしょぼい8ビットマシンがあった筈だ。
筐体もこんなキレーな奴じゃなくて大きめのポリタッパーに穴を開けただけのしょぼい奴だったし。
てゆーかこのガラスケースがジャマでこれ以上進めねえな。
何か知らんけど天井から床までピッタリ収まってる感じだ。
よじ登ったら越えられんだろーけどバリッて行きそう……って訳でもねーか。
考えてみたらコイツも含めた詰所全体が破壊不能オブジェクトみてーになってんだよな。
他のものも同じかどうか……なんてことは分からんけど、日が暮れて朝が来たりトイレに行きたくなったりするんだ。
多分この詰所だけがおかしいんだよな。
良し、よじ登って行くか。
……うーむ。
ちべたい。
当たり前だけどガマンするしかねーか。
しかし真っ暗だけどホントに一切何も見えねーのな。
ガラスの中はもちろんだけどまわりも一切何も見えねーのはカンベンして欲しいぜ。
ぶるっ……うぅ……ガラスにピッタリ張り付いてるせいで何かトイレが近くなった気がすんぜ。
水分なんて雪をちっとばかし食ったくれーで大して取ってねーのにな。
コレ、出れなかったらどこですりゃえーんや……
っと、やっと反対側のヘリに着いたぜ。
……コレ、降りれるよな?
反対側と対称なら高さは同じ筈だよな?
良し、飛び降りてみっか。
せーの、とりゃ。
……良かったぜ、フツーに床っつーか反対側の壁があっ——
バキッ。
「おわぁっ!?」
何か底が抜けた!?
じゃなくて何かを踏み抜いた!?
けど相変わらず真っ暗だぞ。
ドン、とどこかに着地……
『おわぁっ!?』
と思ったら足場が丸い形? になってて両足が外側にツルっと滑り、何かに馬乗りになった。
痛え! メチャクチャ痛え!
何が痛えってアレが痛え!
コレズボンのお股がブッ裂けてねーだろーな!?
……今叫んだのって誰だ?
『こらぁ、いつまで他人の顔面に汚物を押し付けとるつもりなのじゃあ』
へ?
「えーと……誰?」
『良いから早くどかんかあ』
「おしっこもれそう」
『や、やめるのじゃあ』
「あっ」
『えっ!?』
「なーんちってぇ」
『えー加減にせんかお主!』
「分かった、分かったからちっとばかし待てい!」
コレ、降りれんのか?
3mとかあったらフツーに大ケガなんだけど。
その前に俺のお股が交通事故で大惨事な訳だが。
クソ寒いっつーのに油汗ダラダラだしもーちっと落ち着いてからでもバチは当たんねーよな?
『おーい、早くどかんかぁ』
「ちっとばかし待てと言っとるだろーに理解力のない奴め」
センセーさんとはまた違ったベクトルでイラッと来るぜ、このしゃべり方。
……つーか敢えて考えない様にしてたけど、今しゃべってんのってやっぱ俺のお股の直下にあるナゾの球体(?)だよな。
何か知らんけどせめて地面? 床? 伝いに移動するぐれーは試さねーと怖くて動けねーからな。
「やべぇ、今度はウンコもしたくなって来た」
『や、やめんかこの痴女めぇ』
「へ?」
『へ?』
今痴女って言ったな?
つーことはセンセーさんたちと同じラインか。
しかしそーなるとお股のほうは今どういう状態ナノダロウカ。
さて、それはさておき……
「ほんの冗談だよ。地面伝いに移動したいからちっと待ってろや」
今コイツと接触している部分をなで回しておおよその形状を確認する。
『な、何をおっ始めようというのじゃあ……』
今またがってるのは頭の部分か。
てことはこっちに向かって動いて行けば地面に到着出来るって訳か。
『こ、こら……どこを触っておるのじゃこのヘンタイめぇ』
ハイ、早速いただきました。ヘンタイ認定!
だがここで止まるわけには行かねーのだ。
「しょーがねーだろ、こうでもしねーと降りれねーんだよ」
俺はしゃべるヘンテコな銅像? の胴体を伝って恐る恐る地面に到着した。
……こんだけ垂直だとちっと無理だな。
『何じゃ、奥の通路に行きたいのかの?』
「おう、つーかコレどーやって外に出りゃ良いんだ?」
『ならば妾の後ろに木が一本立っているであろう。
そこを経由すれば向こう側にはどうにかたどり着けるであろうよ』
「えーと……真っ暗で何も見えねーんだけど」
『妾の真後ろにサルスベリが一本生えておったじゃろ。
お主ならば知っておるじゃろうに』
「へ?」
お主ならばって何だよ……あれ?
サルスベリ……?
像が建っててその後ろに……ってここってもしかして親父の会社の中庭?
* ◇ ◇ ◇
『コホン……ときにお主? 先ほどからの失礼極まりない行動といい、なにゆえその様に器用な格好で台座にしがみついておるのじゃ?
やっぱり筋トレかの?』
「ちげーわ!」
『ナルホド、おかしな趣味じゃのう?』
「趣味でもねーっちゅーに!
こうでもしねーと落っこっちまうからに決まってんじゃねーか!」
『横倒しじゃと……?』
「だって今全部90度横向いてんだろ、それで苦労してんじゃねーか!」
『はあ? 何を言っとるんじゃお主。噴水の水だって重力に引かれて上から下にちゃんと流れとるぞ』
「噴水? 水……?」
『それにお主も思いっきり水浸しになっとるではないか』
「へ……? んなこと言われても真っ暗なんだっちゅーに」
うーむ……水が見えねーのはまあそんなもんかと思うが、タテヨコが違うってのはちっとばかし新しいなぁ。
やっぱ最近ちょっちマンネリ気味だとか思ってたのがデケーのかなぁ。
……じゃなくてえ!
コレってアレだよな、あそこにあったアレ。
ソレが何でしゃべってんの?
つーか何で妾なのじゃーとかいう口調なんだ?
「なあ、アンタは一体誰なんだ?」
『そういうお主こそ誰じゃ?
その姿、てっきり王家の血筋か高位の神官戦士か何かじゃと思うたが……
てゆーかどっから湧いて出たんじゃ?』
「うーむ……じゃあ質問を変えるぜ。ここがどこでアンタ以外にも誰がいるのか教えちゃもらえねーか」
この際だから誰ソレ言う前にアンタは銅(?)像だろってツッコミは置いとくぜ!
『この場で妾にその様なコトを聞いてくるということは……さてはお主、異世界からの転生者じゃな?
なら話は早い。見せてみよ、お主のちーとすきるとやらをな!』
「ちっと待て、どうしてそーなる?」
『ふふふ……そうケンソンせずとも良いぞ?』
「待て、ちっとも話が見えねえ」
『妾もその昔は色々とヤンチャをやらかしたものよ。
勇者とやらを召喚してやるぞと思って儀式をやったらちっとばかしイケニエが足りんでの——』
「無視かい! つーかイケニエとかどー考えても勇者じゃなくて悪魔か何かを召喚する儀式だろ!」
『これお主、他人が気持ち良く話しとるときにその様にさえぎるもんではないぞ。無粋じゃろうに』
「オマケに自己中キャラなんかいな」
『何を言うか、コレで世が世なら妾は大国の姫君様なんじゃぞ』
「はあ? どっからどー見ても会社の庭に立ってる像だろ。
ディティールも少ねーし金かかってねーのが丸分かりだっつーの。
暗くて何にも見えねーけど!」
『何じゃとお!? お主、せくはら発言も大概にするのじゃあ』
「そんなんお股から先に落っこちて来て顔から台座まで丸太みてーにガッチリしがみつきながらモゾモゾと移動してる時点でゲージMAXまで振り切れとるわ!」
『全くお主……その体勢で良くそんなマシンガントークがぶっぱ出来るのう』
「何でぇ、さっきの話はおしめぇかよ」
今マシンガントークって言ったぞコイツ。
それにぶっぱが何だか分かって言ってんのか……?
平成のゲーセンでブイブイ言わしてたギャルかいな。
『何、お主がアホだということが分かって呆れておるのじゃ』
「何じゃそりゃ……んで続きは?」
『えーと……どこまで話したかの?』
「アンタも大概だな、他人のことアホ呼ばわりしくさってからに」
『じゃかましーわ!』
「ホレ、怪しい儀式をやらかしたとかイケニエが足りんかったとか言ってただろ」
『あ、大国の姫ってトコじゃないんじゃのう?』
「もえボケなんぞカマさんでえーわ! うぜえ!」
『コレでも大マジじゃぞ!』
「あー分かった分かった分かったよ姫サマ?」
『う、うむ。分かれば良いのじゃ分かれば』
「マジかよチョロいなオイ」
『口に出してわざわざ言わんでもえーことを……
それで誰なのじゃ? お主を召喚した者は』
「だから違うって」
『その様なことはあるまい。
妾とうりふたつの姿と声色、加えてその様に真っ赤な髪を持つ者が偶然虚空から飛び出して来る筈はないのじゃ』
「待て、虚空からと言ったな?」
『じゃから召喚されてやって来たのであろうと申したではないか』
「イケニエとやらを捧げてか?」
『む……それは分からんがの』
「ウソつけ! どーせ首をはねて祭壇に捧げたりたりケツの穴から串刺しにしたりしてんだろ!」
『お、お主も妾を魔物扱いするのか……!』
「何でそーなるんだよ」
『あ……い、いや……何でもないのじゃ……』
あ、アカン、手がプルプルして来た。
このまんまじゃ早晩落っこちそうだぜ。
あとトイレ行きてえ……メッチャ行きてえ……!
「くっ……腕が限界だぜ……!」
『な、何じゃと?』
「それに……」
『それに?』
「う、うんこしたい……」
『お下劣は禁止じゃこのおマヌーめえ!』
「お下劣じゃねえ! こっちは大マジなんだっちゅーに!」
『黙れ! お下劣は禁止! 略してオゲ禁じゃあ!』
そ、その略称……必要なのか……? あ、そーだ!
「姫サマ? ソレガシはうんこがしとうゴザりますればぁ!」
『それらしく言っておだててもお下劣はお下劣じゃ、このアホンダラめぇ!』
……もうお姫サマってキャラじゃねーし!
うぅ……もう自由落下待った無しだぜ……
クッソォ……!
……うんこなだけに。
* ◇ ◇ ◇
良し、後ろにサルスベリの木があるっつったよな……
そこを経由して行けば奥の通路がある……と。
ここは思い切って落っこちてみるしかねーか。
「しょーがねーなっと……」
『へ?』
てな訳でここは思い切って自由落下することにしたぜ!
……ってアレ?
木は?
『アホかお主は。何で90度違う方向に行くのじゃ?』
なぬ!?
後ろ=木=通路なんじゃねーのォ!?
「おわーっ!?」
『おいこら、そっちじゃないと言うておろうに』
「知るか! こちとら自由落下なのじゃーっ!」
ってのんきにモノマネなんてしてる場合じゃねーぞ!
どーすんだよオ——
ゴスッ!
パニクる暇も無く全身に衝撃が走り目の前でキラキラと星が散り——
………
…
「う、うーん……」
痛ってぇ……ってアレ? 明るい……?
ここは……さっきの部屋……?
窓から見えるのは例の人気の無い公園だ。
今度はワンコがいねーけどあのシャトルとかいう乗り物の中にいんのか、穴の底にいんのか……
てゆーかコレ、多分だけど夢だよな……?
さっきしがみついてた像があった場所、あそこが親父の会社の中庭と同じレイアウトだとしたら10mはあんぞ。
どう考えてもイテテで済む訳がねえ。
もしかしたら俺は今、気絶してるとかそんな状態だったりすんのかもな。
最悪臨死体験中とか……?
そういや……俺っていっぺん灯油かぶって焼身自殺しようとしたことがあんだよな。
結局あの後どーなったんだっけ……?
アレ?
分からねえ。
そもそもが夢ん中だったとか……?
いや、んな訳ねえよな。んな訳がねえ。
そもそも夢なら何重にも重なった夢なのか?
場面の飛び具合が支離滅裂過ぎるし、コレが現実とも思えねえ。
今気付いたけど、ここに来てトイレ云々が全く気にならなくなったな……つまりはそーゆーことか。
ハッ!? もしかして俺、気絶してるせいでウンコがタダモレ!?
イカンイカン……考えねー様にしよう。
ともかくだ。
ここがアパートの一室ならトイレのひとつくれーはあるよな。
えーと……さっき乗り物に乗った出口があっちだろ、多分あれが玄関なんだよな。
んでドアはあと三つか。
ひとつ目。
ガチャ。
洗面所か……しかしここもキレーなもんだな。
生活感がまるで無え。
そもそもここって別に俺の部屋でも何でもねーからな。
客観的に見たら俺って今、誰かの部屋に不法侵入してるんだよな。
じゃあ本来の住人が来たらどーなる……?
やべ、急に心配になって来たぞ。
ふたつ目。
ガチャ。
風呂場……ああ、トイレもここか。
しかしさっきの洗面所といい、ちゃんと新品の備品が置いてあるんだよな。
ワンチャンここがホテルって可能性もあんのか……?
だからって今まさに不法侵入中って事実が変わるモンでもねーけどな!
んで最後のみっつ目だ。
ガチャ。
……おろ?
ここって例の秘密基地っぽいとこ……観測所だっけか……ともかくあの場所なんじゃね?
何でこの部屋と繋がってんだ……?
窓の外は……
つーかここが例の場所ならアレが出来んのか。
そーいや実験してみよーと思ってたんだよな、さっきも。
「ターミナルオープン」
……何も起きねえ。
まあ夢ん中だからってそう都合の良い方向にコトが運ぶなんてこともねーか。
目が覚めたら定食屋にいた、なんてコトはねーよな?
今はオタもアホ毛もいねーんだ。
町の連中もどこに行っちまったか……
まあ前に来たときと同じことをつぶやいてみるか。
どーせ何も起きねーんだろーけどな。
「スイ——」
《 スイッチ 》
……!?
目の前がイキナリ真っ暗に戻ったぜ……
どこだよ、ここ……
それに今、誰かいなかったか?
そいつが俺を——
ガン!
「あだっ!!」
ゴスッ!
「いでっ!!」
イテテテテ……
コレ、机か?
恐る恐る手を伸ばすと机や椅子があちこちに雑然と転がっているのが分かる。
それだけじゃねぇ。
今手を伸ばして触れたのはダム端のCRTだったぞ。
つーことは今度の場所は電算室なのか……
中庭からだと連絡通路を通らねーといけねーが落っこちた先は90度違う方向だった筈だが……
それに中庭と違って天地がフツーの位置に戻ってるな?
つまりは落っこちる前とはまた似て非なる場所だってことか。
……さて、どうしたもんか。
* ◇ ◇ ◇
コレ、じっとして待ってたら元に戻るパターンか?
つーか次から次へと俺は何を見せられてんだ?
場所が場所なだけに……いや、そもそも論としていつかのどっかの時点から俺はぐるぐると夢の世界か何かを回らされてるんじゃねーかって気がするんだよな。
いや、夢ん中ってのは語弊があるかもしれねーな。
俺が知らねーヒトやらモノやらが登場して俺の知らねー出来事を語ったりしてんのは明らかに夢って範疇を超えてんだろ。
しかも夢で片付けるにはちっとばかしリアルすぎるしな。
じゃあ何なんだってなる訳なんだが……
ここは俺にとっちゃどうでも良い場所って訳じゃねえ。
これまでだってそうだった。
俺ん家から始まって会社跡地の廃虚、詰所、定食屋……それに警察署……
俺の家族、町の住人……それがちょっとずつ姿を変え形を変えながら現れては俺の目の前から姿を消して行った。
それも転勤やら引っ越しなんかの理由じゃねえ。
場面転換、と名付けちゃいるが言っちまえばコイツは並行世界に転移したみてーなもんだよな。
それに見方を変えりゃ俺の方がいなくなったってことになるのか。
どう考えてもどっかのタイミングで異世界の入り口みてーなのを踏み抜いちまったとしか考えられねえもんな。
俺にとって思い出のある場所、それが何の脈絡も無くぐちゃぐちゃに繋がって出現するのは分かる。
夢ってのはそういうもんだ。
じゃあ身も知らねえ奴が現れて行ったこともねえ国の話をし始めんのは何だ?
ガイコツとかドラゴンとか変なイカみてーなデカブツとか、ゲームみてーなのはまだ分かる。
知らん国の制度やら女神様やらが出て来たり、俺を見てお姉様とか意味の分からん反応をする奴がいたり、このへんは俺の妄想って言うにはちっとばかし創造的過ぎんだよな。
まあここまでは今までも何度か考えたことだ。
あとは特殊機構って奴。
夢に出て来る様なハチャメチャで荒唐無稽な出来事が目の前で次々に起きてんのはそいつのせいなんじゃねーか……と考えたとこでふと思ったんだよ。
特殊機構って何やねん、てな。
何でそんな意味不明な理由付けで納得してたんだろ、俺。
だがコイツは親父の会社で何度か耳にしたことのある言葉だ。
コッソリ忍び込んだ部屋で見付けた中二病全開の論文で見たんだよな。
で、今いる場所がまさにその場所の筈、な訳なんだがなあ……
まわりは真っ暗だけどいつか見たモノが散乱してる状態ってことは同じ様に血塗れなのか……
そもそも血塗れの状態ってのが俺には分からねえ。
今俺がここにいる意味、それと何か関わりがあんのか……?
イヤ待てよ?
マシン室と中庭の間には連絡通路とだだっ広い事務室があったよな。
そっちはどーなってるんだ……?
このまんま通路側に戻ったらまた中庭に戻れるのか?
そしたらさっきの変な奴がまだそこにいる……?
いや、さっきとは状況が違う。
さっきの状況、あれは穴の底に中庭が丸ごと横倒しで埋まってたことを意味する筈だ。
だが今は違う。
それにしても真っ暗だが……
そうだ、あのときは携帯のライトで何とかしたんだったか。
ここで見付けた資料も携帯カメラで撮影しまくって——
てなことを急に思い出してポケットをガサゴソ。
うん、無えな。やっぱし。
まあ、トイレに行きてのも治まってるし何ならさっきぶつけたとこもなんともねえもんなあ……
まあそんならそれで良いんだけどな、結局状況確認はしねーとならねーんだ。
さて、取り敢えず自分が今どっちを向いてんのかだけでも知りてえとこだが……
まあ壁伝いが王道だよな。
イキナリ落とし穴があって真っ逆さまなんてのが無けりゃーな。
おっといけねえ、これ以上はフラグだな。
てな訳でへっぴり腰になりながら恐る恐る右手を伸ばして近場にあるナニカに手を触れる。
ところがそこで返って来たのは生暖かく湿っていて、しかもグニャリとした奇妙な感触だ。
俺はビクッとなり思わず脊髄反射よろしくヒュポッと手を引っ込めた。
えぇ……
汚ったね!
ここに来てヌルヌル系かいな!
たまにマジメくさって考え事するとこれだよ。
こちとら手を洗う手段も無えっつーのによォ。
もういっぺん触ってみるとか勘弁してほしいとこだけど、コレがあたり一面に拡がってんのかどうかは確かめねーとならんな。
襲ってこねーとこを見ると単なる肉壁の類なのか、はたまた植物系の何かなのか……ってこの気持ち悪ぃ生暖かさは動物系だよなあ……
よし、行くか!
いまさっき確かめたんだ。
コイツはリアルじゃねーんだ、そーなんだ。
きっと多分どーにかなる!
てな訳で……とりゃ!
グニャリ。
『あひっ!?』
「うっへぇあぉーいィ!?」
アカン、ビックリし過ぎてワケの分からん叫び声をあげてしまったぞ!
そして腰が抜けたぜ!
『……』
「……」
えーと……もーいっかい触ってみろってか?
こんなん触れっかボゲェ!
いやツッコむ相手いねーけどボゲェ!
『あのぉ……もう一回……良い?』
「良い訳ねーだろーがボゲェ!?」
『あっあっあーっ!?』
もー訳が分からんわ!
何じゃコイツは!
* ◇ ◇ ◇
この高い声……女……じゃねーな。
どっちかっつーと子供だ。
やべえ、事案か。
何だよ、『あひっ!?』てよ……
でも
もーいっぺん……
俺は恐る恐る手を伸ばして人差し指でツンツンしてみる。
『あっ』
「へ?」
ツンツンツン……
『あっあっあっ!』
ツンツツツン……
『あっあああっ!』
……じゃなくてぇ!
これじゃまるっきりヘンタイじゃねーか!
『あのぉ……ヘンタイさん?』
「誰がヘンタイじゃボゲェ!」
『あっあっあーっ?』
『だってさっきから変なトコばっかり……ああっ』
「ヤメレ! ホントにヘンタイみてーじゃねーか!
つーか今度は何にもやってねーぞ」
『えーっ、やめちゃうのォー?』
ゴゴゴ……
『やめちゃうのォ?』
何だ……コレもしかしてヤベー奴なのか?
『ねえ?』
「あ、あのさあ、何してるのかな? こんなとこで」
真っ暗だしどんな奴がどんなカッコしてそこにいんのかも分からねーからな、親切なオジサン的ムーヴで下手に出るしかねーぜ。
電算室……なんだよな、ここ。さっきまでの感触だとな。
『何ってボクはまおーさまのしんえーたいだぞ』
「へ? マオーサマ? シンエータイ?」
『何だよ、シラけるなあ。先生から聞いてないんだ』
「先生……?」
“先生”って誰だ……?
確かさっきのガイコツも言ってたが……
まさかとは思うがあの“センセーさん”か?
しかしセンセーさんがしてたのは“学院”とかいう学校的なヤツの話だ。
ここは親父の会社の事務所跡の廃墟、そーだよな。
『ねえおじさん、ちょっと先生とお話して来てよ。待っててあげるからさ』
「先生って……? さっきナントカなのじゃーとか言うのには出くわしたけど」
『え? ああ、それはまおーさまの方だよ』
「そのまおーさまってのは誰なんだ?」
『えぇ……あのさぁ、ここにいてそれを知らないおじさんこそ誰なの?』
「誰って通りすがりのおじさんだっちゅーに」
もうこうなりゃどうとでもなれだ!
正直じーさんに死角はねえ!
ただ……存在を否定するよーなコトは言っちゃいけねー気がするぜ。
そこは気を付けねーとな。
『怪しいなあ……ここに来る順番だっておかしいし……』
「そりゃおかしいだろ、俺はここに落っこちて来たんだからよ」
『落っこちてって……どこからだよ』
「ここはホラ、穴の底のそのまた下……地の底みてーなもんだろ?」
『はあ? ここは空中庭園の中だよ?
てっぺんが地の底なんてことあるもんか。
おじさん、やっぱりおかしいよ』
いけね、意図せずしてハナっから否定的な展開になっちまったぜ……!
「俺がおかしなヤツだったとして、キミタチに何か出来るとは思えねーんだが」
『何言ってんのさおじさん。
もしかしてボクたちが五体満足ですらない人間の出来損ないだからってバカにしてるの?』
くっそ、言うこと全部が裏目かよ……一体どーなってやがる。
とにかく立て直さねーと……!
「そ、そんなことはねえ、そんなことはねえぞ。
俺はキミタチのことを心配してだな……」
『だってボクたちってさ、ひとりだと自分で出来ないことも多いでしょ。
先生がボクたちの将来のことを考えてみんなの役割を考えようねって、考えてくれたのがコレなんだよ』
「役割?」
『そう、今日、みんなでさ……』
「今日? みんな……?」
いや、ちょっと待て。
今日……?
「じゃあ“そのナリ”は……?」
『たまたまそこのカレンダーを見てさ、アライグマなんて良いんじゃないかなって』
なあおい、やっぱここはあの日の電算室なのか?
「なあ、今日って何年何月何日だっけ」
『何? 1989年の5月4日ダけド?』
ナルホド、元ネタは世界のカワイイとうぶつさんカレンダーだったか……
アライグマにしちゃモフモフ感が皆無だったが……?
『ネエオジサン、ソレガ、ドウカシタノ?』
ゴゴゴ……
/continue
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