そこに居た

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事故にあった。 田舎のよくある歩道以外のところを渡るという危険な行為で車との距離を見誤ってはねられた。 確実に俺が悪いわけで、俺が寝ている間に親が示談交渉を済ませていた。 「そんなに気に病むならどうして頼ってくれなかったの!」 母の言葉に疑問が浮かぶ 「気に病む?ただ道路を渡ろうとしただけだよ、見誤ったけど・・・・迷惑かけてごめん」 「あんた・・・・」「母さん、」 母が何か言おうとしたら父が止めた。 その後意識が戻ったと言う事で医者から軽いチェックをされ、問題ないと言われた。 ただ、日常の取り留めもないことだからか、なぜ道路を横断しようとしたのか、その事は思い出せなかった。 それだけだ、記憶で生活に支障はないが足や肋骨を骨折しているので1ヶ月の入院、会社の同僚や友人達が遊びに来るが、皆辛そうな苦しそうな顔で生きてて良かったと言う、俺はそんなにみんなに心配かけたのか。周りはこんなに俺を心配してくれてるのか、そう思うと胸が暖かくなって、これからの人生気を付けなきゃなと思った。 だが親友だけはなんだか怒っていて飛び出した事を真剣に責められ、最後に覚えてないんだな?と確認を取られた。なんの事だと考えて、なぜあの道を横断しようとしたかの理由は覚えてないと言えば辛そうな悲しそうな苦しそうな苦渋の顔で目を潤ませ、帰るといって帰っていった。 なんだか責められすぎて逆に腹立たしく感じる、自業自得だがそんなに怒らなくても良いじゃないかと思いながら親友が土産で持ってきたケーキを食べる。 親友にしてはケーキなんて珍しい、ケーキ屋の可愛い抹茶のケーキ、普通こういう時ってショートケーキじゃね?と思いながら抹茶のケーキを食べて、その味に何故か懐かしさを覚える、何故だろう抹茶のケーキなんてオシャレな物、俺達には縁遠い物なのに土産でそれが来て、それを食べて懐かしく感じる。 テレビのザラザラした砂嵐に何か移りそうな気がして、だがそれを拒絶して蓋をした。 温かいような優しいような苦しいような悲しいような悔しいようなぐちゃぐちゃした感情に押されて静かに涙を落とした。 なぜそんな感情になるのだろう、なぜそう思うのだろう、わからない、この感情は・・・・ なんだ? 俺は複雑な感情に苦悶しながらも懐かしさを感じる抹茶ケーキを食べる事はやめられず最後まで食べた。 そうこうしていれば病院も退院して俺はリハビリしながら書類仕事で仕事復帰、 腕は無傷だったので書類仕事なら復帰できた。 いろんな人がまだゆっくりしとけと言っていたが何だか仕事をしたくて無理を言ってリハビリしながらの短時間勤務で働く だが会社で不思議なことがある、たまに結愛(ゆあ)と言う女性の話が出ると決まってみんな失敗した顔をする、俺が誰だと聞いたらお前の知らない別部署の女だと言われる。 決まってみんな気まずそうな顔をしているから気になって調べたが小さな会社で誰に聞いてもどこの部署に聞いても名前は知られているのにその女性はどこにも所属していなかった。 そしてみんな気遣わしげに俺を見る。 おかしい、何故こんなに気になるのかもわからないが調べれば調べるほどに気になる、探すのやめろよと言う同僚の言葉に不思議な点を言えば、なんでもできる人だから外から助っ人にたまに来る派遣社員だと言われた。 どうやら優秀な人らしく、繁盛期に手伝いに来てくれるとかなんとか、 そんな雇用形態でその人はやっていけるのか?と思えば他にも派遣されてるからな、人気なんだよと言われた。 人気者の派遣社員ねぇなんて考えながら、人気者の結愛という単語が浮かんで、また砂嵐が俺を襲う、ザラザラした映像に薄く女性の笑顔が映ったような感覚にまた 温かいような優しいような苦しいような悲しいような悔しいようなぐちゃぐちゃした感情の波に静かに涙を落とした。 大丈夫かと周りに心配されて現実に戻る 「あ、あぁ、なんか変な感情というか苦しくなって・・・・ごめん。俺、早退するわ」 俺がそう言うとみんながそうしろと見送ってくれた。 リハビリには早いから迎えに来てもらえるように親に連絡を入れて、会社の外のベンチで松葉杖を置いて待っているとこちらを見る女性 ジジッと浮かぶ砂嵐、ザラザラの奥にある彼女に似た服と髪の女、ガンガンと頭を殴られるような感覚、確かな嫌悪感、確かな憎悪に少しの優しさ なんだ!なんなんだこの感覚は! 崩れ落ち、頭痛に頭を抱える 「朔夜さん!」 女が駆け付けてくる、俺の名を呼んで 「大丈夫!?あぁこんなに顔が真っ青!大丈夫です、私が居ます」 優しく愛おしそうに微笑み背中を擦る女を見る懐かしさと優しさと哀しさを雰囲気に感じるがどこか嫌悪感を感じる、この女から離れないと、 俺は必死に立とうとするが、まだ俊敏に動けぬ身体と警鐘を鳴らす頭の痛さに思うように動けない 「あぁ、朔夜さん!無理しないで!」 俺は触って来る女の手を振り払う 「誰なんだよ!俺に構うな!」 女は少し距離をとり、悲しそうな顔で言った。 「本当に覚えてないのね、私よ、涼音(すずね)結愛」 結愛?ずっと探っていた女が目の前に現れた、ジジッと砂嵐が女の雰囲気だけを浮かばせる顔を見ているのに顔だけが砂嵐に覆われているように覚えてないような、まるでその顔じゃないと否定するかのような気持ち悪い感覚 「私のせいで事故に合わせてしまったから他の人には会えないけどひと目見たくて、でも今は早かったみたい、ごめんね、また、会いに来るね、バイバイ」 輪郭のハッキリした思い出と女に感じる嫌悪感、俺はあの女に何をされたんだと記憶を探ろうにもあの日の事は覚えていない、そう考えた時だった。 そう言えばパズルのピースを無くしたように曖昧な記憶の場所があった。そこに顔の見えない輪郭がハマる。 「結愛は・・・俺の・・・恋人・・・だ・・・」 ベンチの前で跪く俺に驚いた母に結愛にあったと言えば、どんな様子だったと聞かれ、特徴を言えば母は、般若のような顔になる 「忘れたままでいいの思い出しちゃだめよ」 それに俺は問いかける 「でも俺と結愛は恋人だ、もしかして喧嘩したから俺は飛び出したのか?」 母は、悲痛な顔をして忘れなさいとだけ言うのだった。 それもそうだあんなに嫌悪感を感じるのだから結愛は相当悪いことをして俺はきっと結愛から離れるために事故にあったのだろう、ならば思い出すのも会うのもこれっきりにしよう。 幾月が立って俺は完全回復、営業に戻りバリバリ働き出すと、また結愛に会う。 「朔夜さん」  「あーあんたか、悪いけど俺は覚えてないんだ復縁とか無理だから帰ってくれ」 俺はそう言って結愛から離れた。相変わらず結愛という名前に顔を見ているのに違う顔のような感覚という不思議な感覚に気持ち悪さを覚える。 結愛は諦めず何度も俺の前に現れた。決まって記憶にあるような服を着ていて気持ちが悪い、そんな日々を送っている中、俺が入院している間に来たっきりで会社でもすれ違うことなく会ってなかった親友がお茶に誘ってきた。 お茶とはまた俺達には似合わない、そんな風に思って居たのに来てみた喫茶店は何だか懐かしいような気がする、そこで取り留めもない話をしながら、そうだと思い出す 「俺、結愛の事思い出したよ」 そう言うと親友は緊張した顔をする 「そうか、それでお前は・・・大丈夫なのか?」 俺はそれになんとも無いように返す 「ぜんぜん、付きまとわれて迷惑なくらいだ復縁はしないって言うのに昨日も待ち伏せされてたよ」 「お前、誰のはなししてるんだ?」 「だれって・・・・結愛だろ?」 訝しむ親友になんでもないように返せば親友は机を叩く 「お前!結愛は死んだだろうが!」 「は?」 俺が驚いていると 俺達の机に駆け寄ってくる“結愛” 「やめて!朔夜さんを責めないで!」 その“結愛”の腕を親友が掴む 「お前!よく出てこれたな!朔夜のストーカー!結愛の殺人犯!やっと捕まえたぞ!」 ゆっくりと女を見れば女は、ニタァと笑う 「朔夜さんの結愛は私だよね?」  どっと波が押し寄せるように記憶が鮮明に思い出される本物の結愛との優しい記憶 俺と親友と競った結果、俺を選んでくれた結愛 大好きなケーキ屋さんの抹茶ケーキ この喫茶店でよく親友も交えてお茶をしてオシャレな結愛に色々教えてもらった。 優しくて仕事ができてなんでも完璧なようで実は少し抜けてて人の何倍も努力してて 誰よりも美しくて誰よりも愛してた 結愛 結愛、 結愛! 結愛は!俺の最愛の人、 だけど俺のストーカーに首を切られて処置も間に合わず死んでしまった恋人。 俺のせいで 俺のせいで、 俺のせいで! 「俺のせいで!!」 「違う!朔夜!お前のせいじゃない!全部こいつが悪いんだよ!朔夜!」 親友の言葉に女を見ればニタニタと笑う女 「結愛だよ朔夜」 「お前まだそんな事を!!!」 そうだ、あの日、俺は結愛が切られたあの場所に行って結愛のいない世界が耐えられなくて車の前に飛び出したんだ。 結愛だよ朔夜と未だに言う女に親友が黙れと叫び、マスターに警察を呼ぶように言った。 そうかこの女だ、結愛を殺したのは、こいつだ・・・ 俺はすっと立って女を見下ろす 怯えたように親友が声を出す 「さ、朔夜?」 女はニタニタと笑ってまた言う 「結愛だよ朔夜、また一緒になろう」 俺はどこから出したのか底冷えするような冷たく怒りを孕んだ声で言う 「お前は結愛には到底なれないし、俺はお前に死んで欲しい」 俺がそう言うと女はカトラリーからナイフを取り出してあんたは朔夜じゃない朔夜はそんなこと言わないと言いながら振り回して暴れた。 そこにマスターの呼んだ警察が来て取り押さえられ連行されたのだった。 数日後、俺はまたあの結愛を失った場所に来た。 「俺がお前を消した理由はきっと生きていけなかったからだ、でもな、結愛、俺の周りには 俺が結愛を思うくらい俺を思ってくれる人達がいる、だからさ、俺生きるよ、大往生するわ、天国から見るお前が飽きない人生送るからさ、見ててよ」 そう言って俺は紫苑の花束を置いて明日に足を向かわせた。
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