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1 避龍隊
慈愛の女神サウシュローザ。
彼女が流した涙から出来たとされるティアール大陸。その大陸にある国の一つ、サウマール。
豊かな森林と水源があり、農作物の生産が盛んで、慈愛の女神を信仰する土地柄か穏やかな気質の国民が多いことでも知られ、近隣の国とも良好な関係を築いていた。
だが、そんな平和に見える国であっても「悩みの種」は存在する。
グゥワァーーーーーーー!!!
森林に響き渡る咆哮。
鱗に覆われた首や巨大な胴体。
鋭い牙と爪、大きな翼を持つ…。
龍である。
時々現れては建物や人々が襲われ、大きな被害をもたらし、人々の生活を脅かしてきた。
だが、慈愛の女神であるサウシュローザは無益な殺生を好まない。そのため、龍の襲撃は天災と同じようなものとして考え、何百年と耐え忍んできた。しかし、そのうちに不思議な能力を持つ者が生まれるようになる。
龍を取り囲むように動く部隊が一つ。
この隊を率いる男が、光る弓矢のようなものを竜へ向けて撃ち放つ。
これが稀に現れる様になった能力弓…生命力を糧に撃ち放つ事が出来る。
光の弓矢は、龍の胴体に命中し、弾け散る。
グルル…グァーーーー!!
龍が咆哮をあげ、太い尾を一振りすると、カミソリのような鱗が飛ぶ。
隊の者達は盾と呼ばれる、光の板で鱗を防ぐ…がここまで戦ってきた者達はすでに限界で、数人が防ぎ切れずに被弾する。
「!!」
隊長である男の後ろにいた女性も限界だったようで、張った盾が粉々に砕け散る。
男も、先程の一撃で既に力を使い果たしてしまった。
これまでか………!
「まだ盾を張れるもの以外は、攻撃が届かない範囲まで下がれ!」
男の声に、部下達が移動する。
龍の紫色の瞳が男を捉えた。
大きく首を振り、口から炎を吐く前の動作に、男は咄嗟に顔を伏せる。
「…っ!」
しかし、男まで炎が届く事はなかった。
「皆、無事か?」
柔らかな響きを持つ声音に、男がハッと顔を上げる。
緩く波打つ金色の髪…背は高くないが、凛とした立ち姿。
防火加工を施した長いコートが風を含んで翻る。
「レ、レティア隊……?」
龍から目を逸らす事無く対峙した女性…レティア・フロウリアは、張っていた盾を解除した。
「龍をこの場に止めるぞ!」
「「「了解!!」」」
レティアの声に率いてきた部下達が答え、散ってゆく。
「よく頑張ってくれた。ここからは私達が引き受ける」
戦況が目に見えて好転し、レティア隊に救われた面々が目を見張る。
「さすがレティア隊だ」
「これならいけるかもしれないぞ!」
指示を出しつつ、自らは戦況を見つめていたレティアだったが…。
「ケイル!」
「はいはい。いつでもどうぞ」
後ろに控えていた男、ケイル・クロウシュが軽く答えると同時に、レティアは弓を生成する。彼女の身の丈を越すほどの《大弓》だ。
身の危険を察知したのか、龍が鋭い爪を繰り出してくるが、ケイルによって張られた盾に弾かれて届かない。
弓と盾は同時に使えない。だが、攻撃をする以上、反撃される率が高い弓を護るのが、ケイルが担う守護だ。
「……悪いが、少々痛い思いをしてもらう!」
大弓を撃ち放つ!
翼の根元に命中して、弾け散った瞬間、大きな体が傾ぎ、よろめく。
すかさず他の隊員達が追い討ちをかける。
効いている…。
間髪入れず、レティアが大弓を生成し二射目を放つ!
隊員が細かくダメージを積み重ね、レティアが大弓で追討ちをかけるのがこの隊の戦法だ。
大弓を使える者は一人しかいない為、この戦法はこの隊しか使えない。
だが、生命力が糧である以上、大弓を使うということはそれだけエネルギーを消費する。
グゥワーーーーゥ………
レティアが四射目を撃ち放った時、龍は大きな翼を使い上空へと舞い上がり、そのまま飛び去る。
「……俺達の勝ちだーー!」
一人が声を上げ始めると、歓喜は隊全体に広がり、喜びを分かち合う。
レティアが、ふらりとよろめく。
それを支えたのは後ろに控えていたケイルだ。
「撃ちすぎですよ。でも、お疲れ様でした。レティアさん」
慈愛の女神、サウシュローザは無益な殺生を好まない。
その為、能力を持つ者達の使命は龍の討伐では無い。
龍は賢いので一度痛い目をみるとそこには二度と近づかない。その性質を利用して、龍と対峙し避ける…彼等のことを避龍隊と呼ぶ。
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