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「兄に、僕のこと、頼まれたんですよね?」
「まぁな、…にしても、どうしてこんな事になっていた?」
「外に出るのが…怖かったんです」
「なんで?」
現代でいうニートのような生活をしていた澪に向かい、不思議そうに伊鶴は尋ねる。
「兄から…あまり事情は聞いてないんですね」
「んー、お前が引き篭もりだという情報しかくれなかったぞ」
「そっか…、確かに兄さんの立場からすると、説明しにくいかもしれませんね」
俯き伊鶴に背を向け、澪はぼそっと語る。
「僕と兄は兄弟だけど、母親が違うんです。
兄さんは生粋の能力者同士の間に産まれ、僕は非能力者の母親から産まれた。それがどういう意味か、ご存知ですか?」
「…能力差、か」
「そうです。僕と兄の力は天と地の差がある。代々一ノ瀬の能力を受け継ぎ当主として、新アルカの統治者として立派に役務を果たす兄に対し、僕は並以下の力しか持たない。この世界に貢献することもできない。…その事でずっと、比較され続けてきました」
淡々と続ける澪に、明るい相槌を打つのも難しくなってきたのか伊鶴も黙って聞いていた。しかし、
「兄にとっても、僕は足手まといでしかないんです。
皆にとって、僕はいない方が良いんじゃないかって思うようになって…こうなりました。
でも、結局兄に心配されて、構われて…足を引っ張ってきたんです。もういっそ見捨ててくれてもよかったのに、そうすれば、あなたも巻き込まれずに済ん…」
「バッカじゃねーの、お前!」
あまりの自虐っぷりに思わず話を遮る。
「お前の能力が陣に劣るのはお前の責任じゃねぇだろ!もちろん、お前の親が悪いわけでもねぇ!…変えようの無い事を否定し続けて、お前自身までお前を追い込んでどうする?」
「でも…」
「俺は非能力者だからお前以上に力が無い。力の器すら無いんだ。統治者の弟って身分じゃねぇから、お前とは全く状況が違うんだがな…。でも、PSIが無くてもやれるって事を思い知らせてやりたくて、死ぬ気で努力してきた。その結果が今の自分だ」
「伊鶴さん…」
「陣のように強い能力者になれないなら、一ノ瀬としての役割を果たせないなら、他で強くなれ!道を切り開くのは、自分しかいねーんだよ!」
熱く語る伊鶴にも、非能力者であるが故に苦労した過去があった。それを乗り越えるために様々な努力を重ねたことも。
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