第1話 彼は寂しい感じ

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第1話 彼は寂しい感じ

あの目が私を見ると、私は恐れを感じる。 暖かい人でも息子の目でも無い、他人の女を見る目だ。 獲物を狙うライオンの目とでも言おうか。 「あなた早く帰って来てね。」 「んっ? ああ、何か有るのかい……?」 「ううん、そうじゃないんだけど……。」 「そっか……でも出来るだけ早く帰る事にするよ。」 私は義理の息子と二人の時間が少し苦手で、夫に早く帰ってきて欲しかった。 夫は40歳、早くに結婚して17に成る男の子を連れての再婚だ。 私もバツイチで33歳、子供が居なかったから、義理の息子との距離感は、どうしたら良いのか分からないままだけど。 私は息子の事をケンイチと呼び、息子は私の事をカスミさんと呼ぶ。 「カスミ、今日はやけに綺麗じゃないか、何かやってるのか?」 夫に そう言われても面倒くさいだけだが、ケンイチの目が一層鋭くなったような気がした。 彼は10歳の時に母親が男を作って失踪したので、女性に対して相当不信感と寂しさを感じているのではないかと思う。 母親の居ない寂しさが、彼の今の性格や感性を形作ってきたのではないか。 そう私は分析している。 ただ勝手な要望だと分かっているが、そういう息子だとしても、新しい母親には普通に接して欲しいと私は願っている。
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