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3男の好奇心に応じようか、どうする
脚を組み、まわりを眺めると、いくつもそういう雑誌が積まれている。身の危険も感じる郁乃。
(だけれど、成り行きでということもあるかも)
「あれっ、ばれたか」
急に声がして振り向くと聡が立っている。蛍光灯の逆光では表情が読み取れないが、筋肉のついた体形だけがシルエットに浮かぶ。
「そうか、男だもんね。経験はあるの」
しまった挑発した、と思った。姉貴分として、教えてやろうと考えたりしている。
「俺も紳士だからさ」
郁乃の前に腰を下ろして言う。
「嫌がることはしないよ。約束する」
彼の言葉が、ちょっと気取ってるのはわかる。
「かわいい子が見つかると良いね。今日はここで泊るしかないみたいだけど、何もしないでよ」
台風の風が唸り、雨は、ますます強くなり部屋のドアを叩く。
「何もしないから。指切りしよう」
どこかで見たテクニックを試すつもりらしい。絡ませる右手の小指、どうしても顔が近づく。
「キスしたいけど、無理ならいいよ」
彼の左手が彼女の右手首を掴む。ちょっと危ない、と郁乃は腰を浮かせる。
「安心して、何もしないから、押さえてていいよ」
彼は彼女の右手を口元へもっていかせる。指切りしたまま自分で口元を隠す状況。それで、指切りを離す彼が彼女の小指をしゃぶる。
「やだっ」
郁乃は目の前に見える彼の顔と、ちゅっちゅっと吸う音にキスの疑似体験をしてしまう。
「自分で食べてみて」
佐藤は郁乃の口へ彼女の小指を押し込む。郁乃は荒い息遣いで自分の小指を柔らかく押しだそうとするが、唇がちゅっちゅっと性への序曲を奏でる。
「あと、なんだっけ」
手順を忘れた彼に、郁乃も現実に戻る。佐藤の腰を左腕で強く抱きしめると、くいっ、横に避ける。
あれっ、と呆ける徹。
離れる頬にチュッと一回触れると、彼が恥ずかしそうにした。
「プレイボーイの真似はしなくていいの。次を忘れてるじゃん」
「俺はパンチ派だから」
当時流行りの週刊誌のことだと思ってる彼。
そうじゃない、と言いたい彼女も、ここは苦笑いで済ます。少なくとも、なんだっけ、はない。
(ああいう場面でいうものじゃない)
正直すぎるのも困ったものだ。
「さっ。食事しよ」
風と雨はまだ激しく外で暴れている。食事して早く寝たほうが良いだろう。
どうしても聡と一緒に遊んだ小学生のころの話になる。幼な馴染みと会っている気持ちにもなるが、もっと親しい親戚だから、弟姉そのもの。恋愛感情なんて起きない状況だったはず。
「お医者さんごっこの続きをしようか」
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