加賀美 伊織

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別に疑っていた訳ではないが、予想以上の涙に驚いた 「ああ、結君。そんなに泣かないで下さい。離れられなくなってしまいます」 そう言って透哉が、涙を拭いている 朝比奈 結は、何か言うでもなく、(すが)るでもなく、ただ黙って涙を流している 「……これは一体…どういう事だ?」 「だから言ったじゃないですか…。ああ、こんなに涙を流してしまって、可哀想に…」 「俺が聞きたいのは、そういう事じゃない。……どうして見ず知らずのお前が少し離れただけで泣き出すのだ?お前、何かしたのか?」 「そんなに不思議な事ではないと思いますが?」 俺の問いに、透哉ではなく、佐久間が答える 「どういう事だ?」 「幼い頃に母親を亡くし、唯一の身内である父親を亡くして1ヶ月。父親に言われていた事とはいえ、1人で来る不安は計り知れなかった事でしょう。それでも、まだ中学1年生の彼には、あの暖かい場所から…暖かい人達から離れてまで、あなたに会いたいという、何かしらの強い思いがあったのでしょう。けれども、その人には会う事すら出来ず、これからどうなるのかも分からず、たった1人、この部屋に置かれたのです」 …こいつ……… 「何が言いたい?」 「不安と、緊張と、寂しさと、様々な気持ちを抱えて………。何故あなたは顔すら出してくれないのか?いつ会えるのか?……文句の1つくらい言ってもいいでしょうに……。あなたにお礼を伝えてくれと言われました。ちゃんと休めてるのか?無理しないで欲しいとも言われました。……結君は、そういう子です」 「はっ……。随分と分かった様な気でいるんだな」 「ええ。私は、あなたに命じられ、これまでも結君を見てきていますし、こちらへ来てからも、直接会って話してますからね」 こいつ、調子に乗ってペラペラと… 「いい加減にしろ!回りくどいのはよせ。言いたい事があるのなら、はっきりと言え!」 「如月は、今日初めて少し関わっただけの存在です。その人が傍に居るだけで、あんなに安心出来る程、他に安心出来る人が居ないという事です。沢山の抱えていた思いが、思いがけず飲んでしまった酒によって、ほんの少しだけ、甘えるという形で表出されたのでしょう。けれども、それでも結君は、何も言わずに涙を流すのです。行くなとも、傍に居て欲しいとも、あなたを呼んで欲しいとも言わず……。分かりますか?結君は、そういう子なのです。結君が今1番欲しいものを与えられるのは……さて、誰でしょうね?」 腹が立つ 何でも知ってるかの様な物言い だが、おそらく言ってる事は間違っていないのだろうから、更に腹が立つ
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