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佐久間
俺の父親は、加賀美社長の秘書で
俺の祖父は、加賀美会長の秘書で
俺は、彩仁か伊織の、或いは2人の秘書になる以外の選択肢を考えた事がなかった
幼い頃から、たまに会う事があった1個下の双子は、顔こそあまり似ていなかったが、同じ物を見て同じ様に笑っていた
自分達の父親が、祖父が、佐久間と呼んでいる姿を見てきた双子達は、俺の事も佐久間と呼んだ
俺も、そう呼ばれる事が誇らしく、よく3人で親達の真似事をして遊んだ
小学生になった頃から、伊織は人見知りしているかのような、人前で少しオドオドしている様な感じが見られた
彩仁の少し後ろに隠れる様にしている姿は、加賀美グループのトップとなる者として、大丈夫なのかと幼いながらに心配になった
中学に入ってからは、お互い忙しくて、あまり会う機会はなくなっていった
大学に入り、少しずつ父親の仕事を手伝い出す
双子も同じ大学に入学し、たまに大学構内で見かけるようになる
彩仁は、予想通りの大学生になっていた
伊織は、まるで笑顔を見せない奴になっていた
何人もの人達と一緒に歩いている姿は見るが、2人だけで歩いている姿は見ない
あの双子に何があったのか?
別に2人の仲がどうであろうと関係ないが、トラブルは避けて欲しい
大学4年の冬…
その日は珍しく雪が降り、物凄く冷えていた
天気のせいか、なんだか人と関わるのが煩わしく、俺は屋上へと向かった
こんな天気に屋上へ来るような馬鹿な奴は居ない
少し気分転換をしたら戻ろう
そう思って屋上へと向かったのに……
大学生にもなって、馬鹿な奴が居るもんだな
風に吹かれ、雪に吹き付けられている奴が居る
屋上だからか、予想以上の風だ
これは、気分転換どころじゃない
戻ろうとして、去り際にもう一度そいつを見ると……
「……彩仁?」
見間違いか?
もう少し近付いてみる
「……彩仁?彩仁なのか?」
俺が声を掛けると、
「佐久間?」
こちらを振り返って答えた
「何やってるんだ?お前!風邪引くぞ!」
「佐久間……雪…」
「そうだよ!雪が降る程寒い上に、この強風なんだから、さっさと中入るぞ!」
ぐいっと腕を引っ張る
「待って、佐久間…」
「待たない!話なら中で聞く!」
こんな雪の中佇んでる彩仁を放置して、風邪なんて引かせたら大問題だ
「佐久間!お願い!見て!」
「見る?何を?」
俺が足を止めると、
「あれ、見て」
彩仁は遠くに見える山の方を指した
「あれって…山の事か?」
「いつもは青い山なのに、上の方だけ綺麗に白くなってるでしょ?」
「?………そうだな」
「こっちは、緑の木達に、綺麗に粉砂糖かけたみたいになってるでしょ?」
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