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ちゃんと進級して4年で卒業した彩仁は、突然消息を絶った
大きな後悔が俺を襲った
これだけの大企業の跡取りとして生まれたのだから、様々な問題も葛藤もあるだろう
それも、男の双子なのだ
周囲や親戚からも、色んな目で見られ、色んな噂も聞こえてくるだろう
大学を卒業したら、すぐに父親の元働き出す事となる
少しナーバスになってただけなのだろうと思っていた
実際、その後俺が卒業するまで何度か見かけた彩仁は、いつも通り笑っていたし
俺が卒業後も、伊織と共に優秀な成績を修めていた
だから、これから俺は2人にどう関わっていくのか
ようやく加賀美の秘書として実働出来る、その為に出来る準備をと、思っていたのに……
彩仁は見付からなかった
そう…聞かされた
伊織は、冷静に仕事をしていた
期待に応えるべく、黙々と仕事をしていた
伊織が彩仁の事をどう思っているのかは分からない
俺が口を挟むべき事じゃない
誰も彩仁の話をする者は居なかった
まるで、初めから加賀美の家には存在していなかったみたいに……
時々ふと、あの日の彩仁を思い出す
あの日、俺がたまたま屋上に行かなければ…
あのままああして、雪と風に吹かれながら、どのくらい屋上に居るつもりだったのだろうか?
あんな雪と風の中…1人で泣いていたのだろうか?
あの日だけではなかったのだろうか?
俺には全く分からなかった彩仁の話を…
分かってくれる人に出会う事は出来ただろうか?
伊織は、期待通りの仕事をし、若くして副社長の話が持ち上がってきた頃、伊織宛に1通の手紙が届いた
送り主は、朝比奈とだけ書いてあった
フルネームではない、伊織個人への手紙…
伊織に確認するも心当たりがないとの事で、慎重に中身を確認する
その手紙の内容は、信じられないものだった
伊織、驚かせて悪いな
彩仁だ
今は、朝比奈 彩仁なんだ
俺の名前を書くと、伊織の元まで届かない可能性があったから、変に不安にさせて悪かった
彩仁だ
彩仁からの手紙…
すぐに伊織へ渡す
消印は一昨日になっている
今も離れた所で、ちゃんと生きていた
なんとなく、彩仁が見付からなかったという結論の早さと、その後、伊織の近くに居る自分にすら全く話が入ってこない事から、上層部は何かを知っていて、それを一切消した様に感じていた
だから、命を落としたとか、全くの消息不明ではないのではないかと思ってはいた
けれど、ただの俺の勝手な予想と期待だ
誰にも聞く事の出来なかった答えが、突然本人から送られてきたのだ
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