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手紙を読み終えた伊織が、俺に手紙を渡しながら、
「ふっ……馬鹿げてる」
そう言った
手紙の中には、
朝比奈という女性と結婚し息子が1人居る事
その女性が亡くなってしまった事
息子はまだ3歳
加賀美の家に干渉する気はない
だが、もしも自分に何かあったら、息子に会ってくれとの事だった
その後の事は、伊織に任せると
そう書かれていた
家庭を……
そうか
分かり合える人に出会えたんだな……
馬鹿げてると言った伊織は、俺に、様子を見に行って来いと命じた
彩仁は、小さな教会の牧師をしていた
小さな教会で、小さな息子を抱いて、空を見上げて、息子と共に笑っていた
教会の中から、彩仁を呼びに来た人が、彩仁の代わりに息子を抱き上げ、彩仁と同じ様に空を見て、楽しげに笑っていた
ようやく分かった
皆と同じじゃないのが辛い
上手く生きられない
そう言って涙を流していた彩仁
こんな風に生きる人が、あの世界で生きていける訳がない
一体どれだけ涙を流して1人で苦しんでいたのだろう?
それでも、誰からも、上手く生きてるとしか見えない様に生きるのは、どれだけ大変な事だっただろう……
「そうだな、彩仁。きっと、俺はお前よりは伊織に近いから、笑わせるのは難しいだろうけど、欲しいものや、嬉しいと思うものを探して、お前の代わりに与えてやるよ」
俺は、見て来た事を伊織に報告した
感情をほとんど出さない伊織が何を思ったのかは分からない
伊織は手紙を出さなかった
その代わり、毎年、俺に様子を見に行かせた
端から見てると、会って話せばいいのにと思う
だが、この双子にしかない何かがあるのだろう
ふと、遠くから見ているのに、彩仁と視線が合ったのでは?と思う事がある
だが、次の瞬間には別の物を見ていて…
勘違いなのか……
勘違いではなくとも、気付かないフリをしているのだとしても、俺達は会うべきではない
お互い、そう思っているはずだ
そんな事を続けて数年
朝比奈 結からの手紙が届く
1ヶ月前に父親が亡くなった
伊織に会いに来るとの事だ
早過ぎる
息子だってまだ中学1年生だ
なんとなく…
伊織が社長になって
俺達がもう、いい歳になって
そうしたら、また話し合える日が来るのではないかと思っていた
伊織と彩仁が会う事は永遠になくなった
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