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伊織は手紙の返信を出さなかった
そのくせ、自分のマンションに部屋を準備しろと言った
どうしたいのか?
自分でも分からないのだろうか…
普通は会った事もない、知らない人の元へ、手紙の返信もないのに来ないと思うだろう
それなのに伊織は、部屋を準備させ、俺を駅へと迎えに行かせた
俺は、結君が来るだろうと思っていた
約10年、ほんの数分の間だが、俺が見て来たあの世界で育った少年に、来ないという選択肢はないと思った
両親を失くした少年は、小さな体で大きな荷物を持ち、人混みから離れた場所で、小さなメモを開いていた
あれだけを頼りに来たのだろう
突然声を掛けた俺に不信感も持たず、疑う事なく車に乗り、助かったと言ってきた
何者だか知らない伊織の元へ行く訳ではないのだと聞くと、少し残念そうだった
部屋を見ると驚いていたが、そこに1人なのだと聞くと、少し寂しそうだった
だが、不安や文句を言う代わりに結君が伝えてきたのは、伊織の心配と、伊織と俺への感謝だった
少し不安になった
伊織の事が分からないと言った彩仁の息子
俺や伊織が、この子の事を分かってあげられるだろうか?
事件はすぐに起きた
誤って酒を飲み、外で倒れていた所を如月が発見した
如月は、あのフロアを管理している
どこの部屋が使われているのか把握出来る
あの時点では結君しか居なかったから、大浴場へ入室後、長い時間退室されないので、何か問題が起きてないか確認に行って見付けたらしい
すぐにマンションへ見に行くと、服を着せようとする如月と、すぐに脱ごうとする結君が居た
「結君、ほら、風邪引いちゃうからね~」
「ん~……」
ウトウトしている結君の腕に如月が服を通すと、
「ん~?ん~~」
また脱いでしまう
「ははっ。やっぱりダメかぁ。なんか、服着たくないのなぁ?よし、じゃあ、こうしてあっためようなぁ」
そう言って、如月は、自分も横になり、布団をかけた
すると、結君は、満足そうに笑って、如月の胸の中で、大人しく寝始めた
「如月、怪我は?」
「ちゃんとは見れてないが、多分擦り傷だけだ。体が冷えきってるから、とにかく暖めよう」
「そうか」
なんとなく…
如月には、分かるんじゃないかと思った
俺達には分からない、この子が望む事を…
きっと、俺達の中で1番この子に近い
「何を飲んだんだ?」
「チラっとしか見なかったが、おそらく果実酒だと思う」
念の為確認しに行くと、『みかん』と書かれた果実酒が、カウンターに出ている
すぐ近くにあるワイングラスを使って……2杯位飲んだか…
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