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彼女が次に公園を訪れたのは、一週間後のことだった。
「吸血鬼さん、そろそろ血が欲しくはありませんか? 先日は、結局差し上げませんでしたし」
朔は完璧な笑顔をたたえて、吸血鬼をそうそそのかす。一方、彼は警戒心丸出しの顔で朔を見やった。
「……今度はなに企んでるの?」
「人聞きの悪い。ただ、一つ、お願いがあるんです」
朔は軽くお辞儀をし、学園で起こっている出来事について話し出した。
最近、怪しい行動をしている男子生徒がいる。どうやら暗号を使って誰かとやりとりしているようだ。上流階級の子弟は外部の者に何かと狙われやすく、事件に巻き込まれている可能性もある。大事になる前に、吸血鬼に調べてほしい。
朔が話している最中から、吸血鬼はみるみる渋面になっていった。
「えー、それ、君と関係なくない? 事件とかいうなら、警察に相談した方が安全じゃない?」
「同じ部活の生徒なんです。ですから、穏便に済ませられればと」
「えー、でもそれって、僕が学校に行かなきゃいけないってこと? やだなあ、僕、人間に騒がれるの嫌いだって言ってるじゃん」
「見つからないようにしますから! とにかく、明日、お願いしますね!」
朔に必死に訴えられて、吸血鬼はしぶしぶ了承した。
貢物は朔の血だ。傷が目立たないよう、左腕の肘の裏に牙をたてる。吸血鬼は、彼女の体の負担を考えて血は小量しか吸わない。
白い肌についた二つの牙の跡。それを長袖の下に隠す朔の表情は、願いをかなえてもらうにも関わらず、冴えなかった。
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