「また明日」の台詞はブルーアワーを背景に

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 僕の名前はしゅう。今日から高校生。 僕がこの高校に入学すると決めたのには理由がある。それは、小2のとき転校を機に会えなくなった幼なじみで初恋の相手、かりんに会うこと。 ―8年前、もうすぐ夏休みというとき、僕は夏休み中に転校しなければならないことを両親から聞かされた。幼なじみのかりんにはちゃんと伝えようと思ってたけど、なかなか言い出せないまま時間が過ぎた。ついにやって来てしまった夏休みの前日、帰りの分かれ道、彼女は僕に「また明日…、じゃなかった!また夏休み明けだね!」って明るく言った。最後まで僕は何も言えなかった。「また明日」も、「好きだよ」とも。そしてそのまま彼女と会うことはなかった。  引っ越してからは元の学校の友達一人とだけ連絡をとっていて、かりんの様子もよく聞いていた。中学に入学してから、かりんは学校で一人ぼっちだと聞いた。僕が側にいてあげなければ。いてもたってもいられなくなった僕は、かりんと同じ高校を受験した。同じクラスになるかどうかは分からないけど、どんな手を使ってでも彼女を見つけ出すと決めた。かりんに似合う男になるために自分磨きもした。  だから、張り出されたクラス分けの紙にかりんの名前を見つけたとき、どれだけ嬉しかったか。まだ誰も来ていない教室の椅子に座り再会の時を待つ。後から入ってきた新しいクラスメイトと話しているときも、教室のドアを気にしている。鞄につけた、かりんとお揃いのお守りを握りしめながら。  ホームルームが始まるまであと10分というところで、ドアが開いた。ゆれたセミロングの黒髪、すらっとした体型に、よく似合う制服。鞄にはお揃いのお守り。身長も髪型も8年前と違うのは勿論だが、そこにいたのは間違いなくかりんだった。やっと…。 クラスメイトと話している、かりんに声をかける。できるだけ偶然、いや運命を装って。     「もしかして、かりん?」 声の主を探しているかりん。まだ僕だとは気づいてないようだ。僕は一歩彼女へ近づく。「かりんだよね?覚えてない?僕、しゅう」 まだ半信半疑だろうか。それならばとお守りを自分の前にかざしたとき、彼女ははっとした顔をした。そして口を開いた。  「しゅうくん!?ほんとに、しゅうくんだ。」 ようやく会えたね。もう一人にさせないよ。        「「久しぶり」」 ホームルームと入学式が終わって、新しく友達になった男女数人で駅前に遊びに行った。もちろん、かりんも一緒だ。かりんは家が遠いから、完全に暗くなる前に帰ると言った。僕もそろそろ帰ろうかなと一緒に外に出る。空は夕日が沈んだ直後で濃い青色に染まっている。ブルーアワーだ。〈運命〉の再会にぴったりの綺麗な景色。駅に着くと、僕たちは立ち止まって向かい合った。乗るのは別方向の電車だ。それから彼女は、あの時と同じ明るい口調で言った。       「それじゃあ、また明日ね!」 嬉しさがまた込み上げた。やっと言える。 ずっと言えなかった、8年越しの台詞。 これからは毎日言えるね。                    「また明日。」
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