夢にまでみたマイホーム

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夢にまでみたマイホーム

 母の遺産を受け取った私は、地図を頼りにその場所を探すことにした。  一体、何をくれたのだろうと、ちょっとした宝探しのような気分になったのを覚えている。  何度も人に道を尋ねながら、やっとの思いで辿り着いたのは、オーディナルの東側にある『ウルタール』という田舎町だった。 「えーっと、この辺り……ん? あれかしら?」  道なりに進んで行くと、小さくて可愛らしい洋館が見えてきた。 「うわぁ……素敵! ん~っ、お母様ってば、最高っ! 大好きっ!」  思わず駆け出していた。  家だ! 家だ! マイホーム! 私の家!  煉瓦造りの門塀の横を駆け抜け、小さな門をくぐるとそこに洋館があった。  辺りを見回しながら玄関の前に行くと、扉には真鍮製の取っ手が付いていた。  黒猫の形を模していて、尻尾部分が持ち手という可愛らしいデザインだった。  他にも蝶番や扉自体にも細かな装飾が施され、職人のこだわりが伝わってくる。  興奮しっぱなしの私は、庭に回り、そっと曇った窓の中をのぞいてみた。  うっすらと見える家の中には、白いシーツが掛かった家具がある。  かなり埃が積もってそうだけど、もしかすると家具は使えるかも知れない。  それに、一人で住むには十分な広さだと思えた。  振り返り、家を背中にして周りを見渡してみる。  周囲は小洒落た赤煉瓦の塀に囲まれていて、庭の大きな金木犀が外からの目隠しになっていた。  外壁や雨樋など、すぐには住めそうにないくらい傷んでいるけど、そんなことは全く気にならない。 「ああ、どうしよう……素敵だわ……」  中も見てみようと、少し緊張しながら扉に鍵を挿してみる。  鍵をゆっくり回すと、カタンと鍵の開く手応えがあった。 「しつれい……しまぁす……」  そっと中に入ると、まるで雪の上を歩いたような足跡が付く。  一階には、リビング、キッチン、物置部屋、個室、バスルームがあり、二階には客室が四部屋もあった。 「あっ!」  二階の客室の柱に、『メイア』と落書きが残っていた。  指先でそっと、落書きをなぞる。  この家に、まだ母の温もりが残っているような気がした。  私は夢中になって、隅から隅まで見て回った。  気付くと辺りは暗くなり、もう陽が落ちかけていた。 「そろそろ帰らなきゃ……」  埃を払って、外に出る。  これから少しずつ、この家を手直ししなきゃね。  扉の鍵を閉め、夕陽に照らされる我が家を見つめた。  成人したらあの家を出る――。  私の中に強い決意が生まれていた。     * * *  今までのことを思い返しながら、私は歩き続けていた。  一歩、また一歩と近づくたび、初めて家を見たときの、胸の高鳴りが蘇ってくる。  色々と準備は大変だったけど、すべてはこの日のため。  ああ、やっと、今日から私の新生活が始まるんだ。  しばらく道なりに歩いて行くと、大きな金木犀が見えてきた。  風に揺れる姿を見ると、もう何年も住んでいたような懐かしい気持ちになる。  赤煉瓦の塀の横を足早に歩き、玄関の前に立つ。  真新しい漆喰の壁が輝いて見えた。 「今日からよろしくね」  修繕を終えたばかりの洋館を見上げて、私はそう呟いた。
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