先住猫?

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先住猫?

 早速、中に入って荷物を置き、空気を入れ替えるため、リビングの窓を開けた。  レースのカーテンがゆっくりと風になびく。 「気持ちいい風……」  そうだ! 買っておいた紅茶を淹れてみようかな。  ウキウキしながらキッチンに向かう。  なんと言っても、この家には立派な調理台があるのが嬉しい。  調理台は、横長の戸棚のような形で、左側に鍋やヤカンを置く台があり、右側には水を入れるタンクと蛇口、中央に炎石を入れる投入口と、その上に肉や魚を調理するオーブンがある。  投入した炎石の熱が全体に行き渡り、温かい水やオーブンに利用される仕組みだ。  麻袋からこぶし大の炎石を一個取り出して、投入口に入れる。 「炎石は早いのがいいわよねぇ」  水を入れた手鍋を台の上に置き、しばらく待つ。  炎石は石炭と違って、発火までの時間が掛からないのが利点だ。  その代わり、燃焼時間は一時間も持たないが、ちょっとお湯を沸かすくらいの時に重宝する。  ティーポットとカップも温めてっと……。 「ふんふ~ん♪」  ああ、ひとりって最高!こんなにも穏やかな時間を過ごせるなんて……。  充実感に浸りながら、淹れ終わった紅茶を持ってソファに向かう。  ぽすっと腰を下ろして、ゆったりとした時間の流れに身を任せた。 「はぁ……いいっ! すごくいいっ……!」  淹れ立ての香しい紅茶。  窓からは柔らかな日差しが入り込んでいる。  これで本でもあれば言うことないんだけど、あまり無駄遣いはできないわよね……。  少しは手持ちがあるけど、何か仕事をしないとすぐに無くなってしまう。  これからどうしようかな……。  魔眼があるからあまりお金の心配はしていないけど、いつ何が起きるかわからない。  誰にも頼れない以上、最悪の事態を考えておかなきゃ。  まあでも、今日くらいはのんびりしてもいいかな……。  眼鏡を外して、私はそのままソファに横になった。  あぁ、こんなことをしても誰にも怒られないなんて……!  ぐぐぐっと背伸びをして、「ふわぁ~っ」と脱力する。  気持ち良くて思わず「うへへ……」と変な笑いが漏れた。  その時、ふと、窓の辺りに気配が――。 「ん?」  見ると、陽だまりになっている場所で、何か黒い物体がうねうねと動いている。  慌てて起き上がって目を凝らして見ると、大きな黒猫が気持ちよさそうに転げまわっていた。 「ね、猫……?」  もしかして、お母様の手紙にあった黒猫ちゃん?  それにしても……いったい、どこから入ったんだろう?  鍵は閉めていたと思うけど、掃除の時に入り込んでしまったのかな。  まあ、猫の一匹や二匹、そう目くじらを立てることでもない。  そうだ、折角だから小さな同居人として迎え入れてあげるっていうのもいいかも。 「気持ちよさそうね~、猫ちゃんどこから入ったのかなぁ~?」  近づいて撫でようとすると、猫と目が合った。  深みのあるサファイアブルーの瞳に、ビロードのような艶のある美しい毛並み。  普通の猫よりも大きく見えるし、何だか圧というか貫禄がすごい。  猫はその場でくるくると回った後、ドサッと横になった。 『なんだ新入り、挨拶も無しか?』 「――えっ?」
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