再会、そして――⁉

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再会、そして――⁉

「フレデリカ? ああっ、フレデリカだぁーーーっ!!」  拝啓、お母様――。  なぜか私、とんでもなく美しい男性にハグをされています。  わーい、初めてのお客様だーなんて思って、扉を開けただけなのに。  いったい、これはどういう状況なのかしら……。  嫁入り前のレディに断りもなくハグするなんて、普通に警備騎士団行き案件な気がするけど。 「あの、すみませんが……離してもらえませんか?」 「あっ? ご、ごめん! あまりに嬉しくて……その、悪気はなかったんだ!」  私を抱きしめたまま、絶世の美青年は弁解を始める。 「そうですか……悪気がないのはわかりました」 「あぁ、良かったぁ~! ずっと会ってなかったし、忘れられてたらどうしようかと……」 「……どちらさまでしょう? そして、いいかげん、離してもらえませんか?」 「うあっ⁉ ご、ごめんっ!!」  美青年はパッと両手を挙げて私から離れた。  サラサラで蜂蜜色の髪……そして、この少し頼りなさそうな笑顔……。  どこかで見たような……。  私は眼鏡をずらして魔眼で視てみた。  ・ジェレミー・オストラム(28才)   オストラム家の現家長、王都で『オストラム商会』を経営。   神の寵愛を受けており、絶対的な浄化能力をその身に宿している。 「えっ? ジェ……ジェレミー叔父様ぁ?」 「やっと気付いてくれたんだね、フレデリカ! そうだよ、ジェレミー叔父さんだよ」  ――う、嘘でしょ⁉  記憶の中の叔父様は、まだ幼さの残る美少年だったのに……。  ていうか、神の寵愛って何っ⁉  昔はこんなの視えなかったと思うけど……もしかして、成長して魔眼の力が強くなったのかな?    まあ、それはいいとして……そっか、もう、あれから十年も経ったんだ。  そりゃあ、叔父様も歌劇俳優みたいになってるわけだ。 「ごめんよ、フレデリカ。メイア姉さんが亡くなってから、君に会うことを禁じられていたんだ。何度も男爵様には頼んでみたんだけど、全く聞いてもらえなくてね……」 「えっ⁉ そうだったんですか⁉」  どうりで変だと思った。  あれだけ頻繁に遊びに来てくれていたのに、突然来なくなるんだもの……。 「こんなに大きくなって……。君が家を出たと聞いて、心配で心配で……」 「そ、そうだったんですね、ありがとう叔父様」  叔父様は小さく顔を振って「何を言ってるんだい、当たり前のことだよ。君はもう、僕の唯一の家族なんだから。これからは、姉さんの代わりに僕が君を守るからね」と、自分の胸に手を当てた。 「……あの、お気持ちは嬉しいんですけど、私、来年成人なんですよ? ちゃんと一人でやっていけます」 「ははは、フレデリカは冗談も上手になってー」  ――だめだ、聞いちゃいない。 「叔父様、ひとまず中に入られては?」 「おっと、僕としたことが、レディを立たせたままだったね。では、遠慮無くお邪魔させてもらおうかな」 「ええ、もちろんです」  叔父様をリビングに案内して、紅茶を出した。  ソファに座り、ティーカップを持ちながら、叔父様はキョロキョロと部屋の中を見回している。 「どうですか? 叔父様が住んでいらした時とは違います?」 「んー、まあ、住んでたといっても、ほんの二年くらいだからね……。何となく懐かしい気もするけど、実はあまりよく覚えていないんだ」 「そうだったんですね……。あ、そういえば叔父様、今は何をしてらっしゃるんですか?」 「ああ、今は『オストラム商会』っていう小さな商会を経営してる。扱う物は特に決めてなくてね。まぁ、何でも屋みたいなものかな」 「へぇ、何でも屋……楽しそうですね」 「そんなことないよ、金になるのは面倒事がほとんどさ。特に最近は変な相談が多くてね……頭が痛いよ」  細長い指でこめかみを押さえながら、叔父様は小さく頭を振った。  王都には、数え切れないくらいの人々が生活をしている。  その人の数だけ悩みや問題があるのかと思うと、ため息が漏れそうになった。 「需要はありそうですけど、大変そうなお仕事ですね……」 「そうなんだよ、僕は少し贅沢ができるくらいのお金さえあれば満足なのに……。あ、もちろん、フレデリカのわがままを聞けるくらいは稼ぐつもりだからね」 「ご心配なく。叔父様、過保護も過ぎると毒になりますわ」 「……まいったな、姪がしっかりしすぎてる」  叔父様が冗談っぽく苦笑いを浮かべながら、呟くように言った。 「ところで、優しい叔父様を悩ませている変な相談って、どういうものなのですか?」 「ああ、えーっと、昨日、相談を受けたのは、とある貴族家の執事だっていう人から、屋敷を買い取ってくれないか、もしくは買い手を探してくれないかって相談かな」 「……普通の商談に思えますけど?」 「まあ、そう思うよね? でも、その屋敷ってのが……問題なんだ」 「屋敷が? どういうことでしょう?」  私が身を乗り出すと、叔父様は口元に手を添え、内緒話でもするように囁いた。 「実は、その屋敷……呪われているらしいんだ」 「えっ――⁉」
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