ペンライトの行く先

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俺は写真屋のバイトを終えて、午後7時に自室へ帰ってきた。 今日もフィルムの現像が数件で、カメラは売れなかった。 最近はデータ保存ですませてしまい、写真をつくる人も減ったそうだ。もし欲しくとも用紙を購入して、家にあるプリンターで印刷できてしまう。うちの店もスマホを店内PCにつなげて、手軽に写真ができるサービスも始めているが(かんば)しくない。 アルバイトとは言え、店から時給は頂戴しているので一抹(いちまつ)の申し訳なさを感じる。 ショッピングセンターの一角にある店舗だが、近い未来潰れてなくなるのではないか。 隣のテナントにある時計屋も、同じ悩みをかかえていた。 俺は店頭に立つふうにして、たまにそこの店長と会話をする。だってお客がこなくて退屈なんだもの。 「最近はさー、腕時計をつけない人も多いんだよ。たしかにスマホで時間は分かるもんなあ。今日も時計の電池交換をするお客さんだけ」 時計屋の店長はそう言い、欠伸をかみ殺していた。 写真屋がなくなっちまったら、またバイトを探さなきゃ。まあ、写真や時計というモノが淘汰(とうた)されたとしても、画像データやスマホは残るわけで。なんとか仕事はあるだろうから、生きてはいける。 前を向いていこう。なぜなら今から、推しのアイドル『(りん)たん』の動画配信があるのだから! 今日という日はさんさんと輝く。 大手事務所には所属していないし、ソロで頑張る凛たんだが、俺は活動当初から応援していた。 彼女が18歳からなので、もうすぐ10年だ。あっという間ともいえるし、苦節10年ともいえる。素晴らしいのは彼女がくじけずに、ファンの声援を活力に努力しつづけたことだ。 キレのあるダンスはますます冴えているし、魅惑のアニメ声は異国のお菓子のようにあまい。 初めは都内の小さいスタジオで数人の客をまえに踊っていた凛たんだが、スタジオは埋まるようになり、地方でコンサートをできるまでになった。勿論、俺は全ての地方を一緒に巡ったのだ。 それが生き甲斐であり、全てであり、人生であった。 そうして今夜の動画配信。全国津々浦々にいるファンを満足させるためのアイディア。なんてファン思いなんだろう。 SNSに書いてあったが、配信中に重大発表もあるとのこと。朗報の記載があったので、卒業等ではないらしい。 初めてのTV出演か、それとも銀幕デビューか、ラジオのレギュラーでも決まったのか。いずれにせよ古参としては、彼女の成長に胸が熱くなる思いだ。 動画サイトは人気のサイトではないが仕方あるまい。それほど画質は悪くないし、応援コメントは画面に流れ、彼女と対話ができる。歌も何曲かは歌うだろうし。 俺は心踊らせながら、机上のノートPCを起動させてネットを開いた。 彼女のイメージカラーである、白×ピンクのペンライトも脇に用意ずみ。 途中でライトが消えてしまうのは興ざめなので、単3電池をさきほど入れ替えてある。 画面に白いテーブルと、白い壁が映る。 清潔感のあるスタジオだなと思った。
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