フリューリング家の帰り道 2

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フリューリング家の帰り道 2

お願いをしてから5分くらいでペルペトゥア教会に到着した。 馬車を降りると目の前には大きな門、その奥にロマネスク様式風の教会が見えた。 「すぐ戻ります」と告げて、門をくぐる。 石造りの重厚な建物、ステンドグラスのようなものはなく、開口部も小さめで中も薄暗い。僅かに差し込む光が教会内の柱を美しく照らしていた。 入り口の横に植えられた立派な楢の木が、風に揺られて葉を散らせている。 「素敵ねえ」 小さい頃から何度も来ている場所、懐かしい気持ちもあるけど、芸術性の高さにしみじみと感動してしまう。 正面の花壇には小さな白い花が咲いていた。 見た感じはコデマリかな、まだ蕾も少しあるけど全部咲くときっと綺麗なんだろうな……ん? コデマリ……白い花……! そうだ! もう一つ思い出した! あの特典ムービーで、顏だけ王子が偉そうに婚約破棄宣言してる時、まわりに白い花が舞ってたんだ。 ただの演出かと思ってたけど、本当に咲いてたのね……この感じだともうすぐコデマリは満開……。 「エミリー様?」 花壇のコデマリを見つめていると、突然後ろから声をかけられ、息が止まりそうになった。 この可憐な声は、まさか、そうなの?  目を細めながらゆっくりと振り返る。  「やはりエミリー様でしたか、いかがなさったのですか?」 うぉぉシャルだーー!  近くで見ると一段とキラキラしてるー破壊力凄すぎるよー。 「えーっと、こちらのほうを通ったので少し寄ってみただけなの、シャルロッテはもうパーティから戻ってきてたのね」 「はい……パーティはあの後すぐに失礼させていただきました」 「そうだったの」 こっちから聞いたのに気まずい、あの雰囲気だもん長居はできないよね。 王子とのラブラブイベントの後に戻ってきたって感じかな。 さてと、わたしも長居は無用だわ。 シャルと話すのは、控えたほうがいいに決まってる。 だってわたしはロッティの親友、このゲームのヒロインと接触することで、ロッティが勘違いされるフラグが立たないとは言い切れない。 帰らなきゃ! 「じゃあわたしはこれで、また学校でね」 簡単に挨拶をして、くるりと向きを変えると、突然後ろから袖を引っ張られた。 「え?」 「あっ申し訳ございません」 反射的につかんでしまったのか、慌てたような様子でシャルは手を離して頭を下げた。 「あの、エミリー様、お時間はございませんか? ぜひ見ていただきたいものがあるのですが」 少し上目遣いで眉を下げ、うるんだ瞳でわたしを見つめる美少女……。 はい危ない! わたしが男なら今恋に落ちてましたーー! 危ないよーそして何、見てほしいものって?  気になる! 気になるけど……乗っちゃ駄目だ。 「ごめんなさい、馬車を待たせてるの、また今度の機会でよろしいかしら?」 「そうですか、突然申し訳ございませんでした……」 シャルは申し訳なさそうに睫毛を伏せた。 きゃーそんな顔しないで、胸が痛むじゃない、何だかずっと謝らせてる気がする。 シャルが悪いわけじゃないからこっちが気まずくなるよ、すっごく辛いんだけど、仲良くはなれないから……。 無言のまま、簡単に挨拶をして門へ向かおうとすると、わたしの背中に向かってシャルが焦ったように声をかけた。 「あの! わたくしシャルロッテ様に謝りたいんです! 週末のペルペトゥア生誕祭でお話しできますか?」 うぉぉいヒロイン、それは絶対に駄目だ!  なんならわたしは、もう二度と二人を接触させないと考えている。 それに何を謝るの? ロッティは何にも怒ってないよ、もし貴女が謝るなんてことしたら、それがイベントになってまたジークフリード王子が現れるんでしょ。 考えただけで面倒くさい、無理無理! ん、ちょっと待って……ペルペトゥア生誕祭? なんだっけそれ? 「ペルペトゥア生誕祭……」 「はい、今月20日と21日に例年通りこの教会で! いらしゃいますよね?」 生誕祭、思い出したわ、年に一度の大規模な催し。 教会絡みなので、この国の貴族たちが参加するのは当たり前の大祭。 もちろんフリューリング家は毎年参加している、それに王族も来る。そして、教会にはシャルがいる……。 きーー! そんなの完全にイベント発生じゃない! 駄目駄目! 目の前ではシャルが懇願するような表情で返事を待っていた。 もちろんあんな王子とは婚約破棄してほしいとは思ってるけど、あの特典ムービーのとおりなら、ロッティが放火犯になってしまうかもしれない。  まずそんなことは絶対にあり得ないけど、強制フラグだった場合、何が起こるか予想できない。 シャルの後ろで揺れる今はまだ五分咲きのコデマリ。 生誕祭の頃にはきっと満開になっているはず……。 絶対に駄目! うん、駄目だ! 「ごめんなさいわからないわ……じゃあ急いでるから……」 シャルにそう言いながらくるりと向きを変えて、すぐに駆け出した。 何を言われても、もう振り返らない、立ち止まりもしない。 やはりヒロイン、見つめられると行動が止まってしまう力がある。 次に会うときはもっと気を付けなきゃ。 馬車に戻り、自分の家であるランハート家へ行くようにお願いする。 ロッティ専用の馬車の中は、彼女の優しい香りが残っていた。 わたしはモブだけどロッティの友達。 わたしの力でなにか変えることができるのかな……。 馬車は石畳の上を走っていく。 遠ざかる馬車を、教会の門まで出てきたシャルロッテが寂しそうな顔で見送っていた。
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