植物園1

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植物園1

植え込みに隠れながらそうっと進んでいくと、微かに会話が聞こえてきた。 三人の生徒の他に誰がいるんだろう? もしジークフリード王子ならさっさとここから逃げるのが正解だ。 はぁー主要人物がいませんように!  祈りながら立ち止まり、全力をかけて耳をすました。 「……シャルロッテ・エレム、あなたいったいどういう気なの?」 「どういう気とは? なんのことでしょうか?」 ひぃぃー見えてない場所にいるのはシャルだ! あの可憐な声、間違いない。  ジークフリードじゃないにせよ危なかったーロッティを引き留めておいてよかった……でも、こんな場所で何? 「あなた、シャルロッテ様の婚約者であるジークフリード様に色仕掛けをしているでしょう!」 「色仕掛けだなんて……」 「たくさんの人が見てるのよっ!!」 中心になって声を荒げるツインテ縦ロールと、その取り巻きっぽい二人がシャルを責めているのがわかる。 うわあ、これってテンプレみたいなイベントじゃないですかーーはぁーやだやだ。 こういう場合は、悪役令嬢に頼まれてというのが定番だけど、ロッティがこんなこと頼むわけない……てことは、余計に面倒なやつだ。 「あなた、シャルロッテ様と同じ名前なのが嫌なのよ、あなたをその名前を呼びたくないのよね」 「……」 シャルは何も答えない。 縦ロールめ、なんという言いがかり……。 もう少しだけでいいから、状況を知りたい。 植え込みの陰から少しだけ首を伸ばし、温室の中を覗いた。 背中からでもイライラした様子がわかる縦ロール、その向こうにシャルの姿が見えた。 やだ、シャルってば今日は髪を一つに結んでる。ますます美少女だ。 悲し気な表情をしてるけどしっかり相手を見据えている、さすがヒロイン。 もちろん可哀想だとは思う、でもごめん、助けることはできない……。 「教会にかこつけてジークフリード様にべったり! 同じ学院にいるからってあなたは平民なの、身の程を知りなさい! 迷惑なのよ」 「それは、誰かがおっしゃっていたのですか?」 「シャルロッテ様が迷惑がってるの! 婚約者なのよ、失礼でしょ」 「……シャルロッテ様が」 今まで縦ロールから目をそらさなかったシャルが、スッと視線を下に落とした。 それを見て縦ロールが畳みかけるように言葉をぶつける。 「そうよ! だからもうジークフリード様に近づくのはやめなさい、身分違いのくせにバカみたいな夢見ないでちょうだいね」  なにあの子ムカつくーーー!  見えないけど横の二人も「そうだそうだー!」と言ってる気がする。 イラっとして危うく目の前にあるアベリアを引きちぎるとこだった。 絶対にロッティはそんなこと言わないし、あなたなんかと恋バナしない! それ以前に、顏だけジークフリードになんて興味が無いんだから! あー思い出した……あの縦ロールはブリジット・コルデーだ。 コルデー伯爵家の一人娘。彼女はロッティに憧れてる。 最初はあの美しさと家柄の強さに嫉妬していた、でも敵いっこないとわかってからはやけにべたべたしてくるようになった。 そして、ジークフリード王子のことが好きだ。 本当は婚約者候補になりたかったけど、すでにロッティと婚約していると知って諦めたらしい。あの二人なら仕方ない、お似合いすぎると周囲にまでアピールして、自分の気持ちを落ち着かせている。 これは完全にブリジットのストレス発散。 自分が諦めた恋に近づく美少女が許せなくて、わざわざ呼び出して嫌味を言ってるんだ。 しかも勝手にロッティの名前まで使って……。 許せない! あの縦ロールびよーんって伸ばしてやりたい!  もしこの事が、あの顔だけ王子の耳に入ったら、またロッティが嫌味を言われてしまう。 その後は最悪の展開しか思い浮かばない……。 関わっちゃ駄目なのは十分わかっている。 それなのに……ここから離れなきゃいけないのに、足が動かない。 待って、さっきまで見えていたシャルの姿が見えなくなってる? あの三人まさか手を出したりしてないよね? もう無理だ、我慢できないっ! そう思った瞬間、アベリアの植え込みから体が飛び出してしまった。 大きく木が揺れて葉と蕾が落ちる。 背中を向けていた縦ロールと他の二人が、慌てた様子でこちらに振り返った。 三人としっかりと目が合ってしまう……が! 信じられないくらい見なかったふりをされた。 いやいや、無理でしょそれ、そっちがその気ならいいわ! わたしは三人の間に割り込むようにして入り、声をかけた。 「あらブリジット? こんなところで何していらっしゃるの?」
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