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目覚め 1
ひどい頭痛で目を覚ますと、見たことのない美しい青年がわたしの顔を覗き込んでいた。
「エミリー! なんてことだ! おお神様……」
長い睫毛に琥珀色の瞳。
わたしを見つめるその瞳には、みるみる涙が溜まっていく。
「こんなことがあっていいのか、エミリー僕だよ! ヘンリーだ」
ヘンリーと名乗った青年は、美しい瞳から涙をぽろぽろとこぼしながら、わたしの背中に手をまわして思い切り抱き寄せた。
え、誰? ヘンリーって外国人よね、って、顔もどう見ても外国人だわ。
しかも見たことないくらいのイケメン……やだ、こんなおかしな状況なのにドキドキが止まらない。
そんなヘンリーにハグされたまま部屋を見渡すと、調度品はどれも見たことがない物、というより現代の物でさえない。
なに、この西洋のお城みたいな部屋……。
事態が呑み込めないうえに初めて会ったイケメンにハグされるわたし……。
これは夢? いや、夢だな、うん。最近残業が多くてしっかり眠れていなかった、夢でストレス発散してるんだ、そういや昨日はどうやって家に帰ったんだっけ……?
「エミリー、ランハート夫人を呼んでくるよ。あまりのことに倒れてしまうかもしれないな。少し待っていてくれ」
ヘンリーはわたしの体から腕を離し、そっとおでこに口づけたあと、嬉しくてたまらないというような笑顔で部屋から出て行った。
扉がパタンと小さな音を立てて閉まり、足音が遠ざかる。
恐ろしいほど部屋が静まり返った。
おでこにキスされちゃった……あいたたた、それより頭が痛すぎる。脈打つ音が他の人にも聞こえそうなくらいザクザクしている。
ふかふかのベッド、羽のように軽い掛布団、部屋中に広がる良い香り……
ちょっと、夢なのに匂いまでする!?
っていうより、わたしずっと頭が痛いんですけど夢じゃないの!?
夢じゃないとしたら、ここどこなの? そしてわたしは……エミリー?
恐る恐るベッドの上で体を起こすと、まるで何日も高熱を出した後のような倦怠感が体を包んだ。
ベッドの周りには、色とりどりの美しいピオニーが床が見えないくらいに飾られている。
「天国……じゃないよね?」
思わず声に出すと、いままで寝ていたせいか喉が張り付いたようになり、激しく咳きこんでしまった。
駄目だ、苦しい、何か飲まなきゃ。
慌ててベッドサイドに置かれたグラスに手を伸ばすと同時に、勢いよく部屋の扉が開いた。
「エミリー!!!!!」
扉の勢いと同じくらいの速さで、一人の美しい女性が両手を広げて部屋に飛び込んできた。
そのままベッドの上にいるわたしに駆け寄ってきたかと思うと、思いきり体を抱きしめられる。
「エミリー、エミリー、顔を見せてちょうだい私の可愛い娘」
目の前の美しい女性は、ヘンリーと同じように泣き腫らした目で、さらに涙をこぼしながらわたしの頬を両手で包む。暖かくてやわらかい手……。
「お母様……」
自然と口をついて出た言葉に自分でも驚いた、でも、この人はわたしの母親な気がする。
なんだろうこの感情、とても嬉しくて胸がいっぱいになる。
少しの間二人で見つめあっていると、母のような女性はハンカチで自分の涙を拭き、テーブルの上にあるグラスに水を注いだ。
「さっき咳き込んでたわね、大丈夫? ああ、もう本当に……エミリーったら」
わたしにグラスを渡した後、また感極まったかのように涙を流した女性は、後ろに立っている男性に駆けよった。
男性は女性を引き寄せて額にキスをすると、背中を優しく抱き寄せた。
グラスの水を飲み干しながらその光景を見ていると、その男性と目が合った。
その人もすべての人と同じく、わたしを見つめながら目に涙をためている。
というより、思いっきり泣いている。
「お父様……」
「エミリー……うぅ」
この人は父親だ、泣いている姿にこちらまで涙がこみあげてきた。
しかし、戸惑いも抑えきれない、この状況やっぱりおかしい……。
不安そうなわたしの表情を見て察したのか、ヘンリーがこちらに近づいてきた。
「ランハート伯爵、たぶんエミリーは今の事態がわかっていないと思われます」
そう! そのとおりよヘンリー! さすがわたしの婚約者! って、婚約者?
今何の疑いもなくそう思った……やだ、自分が怖い。
扉の前で立っている二人がこちらを見てうんうんと頷いている。ヘンリーがベッドの横の椅子に腰かけ、わたしの両手を取った。
ああヘンリーってば、なんて美しい顔してるんだろ。こんなに睫毛が長い男の人を見たことがない、駄目だ、ポーっとしちゃう。
そんなわたしを見つめながら、ヘンリーは話をつづけた。
「いいかいエミリー、君は五日間も高熱で寝込んだ後、息が止まってしまったんだよ」
「え?」
「ここにいる皆、もちろん僕含めてだけど、君はもう死んでしまったと思っていたんだ、だって完全に呼吸は止まっていたし、お医者様もそう判断したからね」
えーーーなんですって!?
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