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わたしは、水都との間に起こったことを伊藤さんに話した。
ずっと自分の心の中に押し留めていたのに、魅音に話したことで解放されたらしい。言葉がすんなりと出てきた。
伊藤さんは聞き上手だった。いじめられたことや絶交したこと以外にも、自分に自信が持てなくて、可愛く思えないことも話した。
「水都がお店に来てくれて嬉しかったけれど、それって、土曜日に会う約束をするためで、告白とかじゃなくて……クラスメートとして普通に話そうって言いたいんだと思います。だから、付き合うとか、ないと思う……」
「どうしてそう思うの?」
「だって……わたし、可愛くない。ブスだし、地味だし……水都に似合わない……」
伊藤さんはコーヒーを一口飲むと、夜空を見上げた。細い月が昇っている。
ひっきりなしに走っている車の音に、伊藤さんの穏やかな声が乗る。
「ゆらりちゃんの話を聞いていると、ミナトくんを好きにならないように、一生懸命にセーブしているように聞こえる。本当は、好きになりたいんじゃない?」
「でも、わたし……」
「わたしはゆらりちゃんのこと、可愛いと思っている。すっごく可愛い。ミナトくんの隣に並ぶの、最高に似合っている。クールな男の子と、ほんわかした女の子。最強の組み合わせじゃん! それにね、ブスって言った女のほうがブス! ミナトくんと付き合って、そのいじめっ子を見返してやって。っていうかね! 学校に乗り込んで、そのいじめっ子に説教してやりたいよ。私のゆらりちゃんをいじめるなって!!」
「ははっ、ありがとうございます」
伊藤さんの優しさが心に染みて、笑っているのに、涙がふわっと浮いてきてしまった。
グズグズと鼻を啜るわたしの頭を、伊藤さんが撫でてくれた。
「あー、可愛い。こんな妹が欲しかったー!!」
「わたしも、伊藤さんがお姉さんだったら良かったのにって、思います。相談に乗ってくれてありがとうございます。前向きになれました」
「良かった。でもまぁ、自分に自信がないのは私もだけどね。人と比べて、あんな顔になりたかったって、しょっちゅう思っているもん。でも世の中には、たーくさんの人がいるだもん。いろんな顔があっていいと思うんだよね。素材で勝負できる女になる! それが私の目標。ゆらりちゃんもさ、その顔で勝負しなよ。いいとこいける。お姉さんが保証しよう!」
「ありがとうございます」
言葉って不思議。
小学生のときに受けた、言葉の呪い──ブス。貧乏。嫌い。見ているだけでイラつく。水都くんにふさわしくない。消えろ!
すごく、傷ついた。
けれど今日。言葉によって救われた。力いっぱい励ましてくれた魅音。可愛さレベルが上昇する可能性があると、期待してくれた店長。その顔で勝負しなよって、背中を押してくれた伊藤さん。
わたしは可愛いって胸を張って言うことはまだできないけれど、可愛くなりたいっていう欲がでてきた。
どんな美人だって、綺麗になる努力をしている。それなのにわたしはブスだから、貧乏だからって諦めて、磨いてこなかった。
可愛くなりたい。明るくなりたい。輝きたい。水都と出会った頃の、元気溌剌なわたしになりたい。
そしてできれば……水都の、好きな相手になりたい。隣に並びたい。
そうだ。わたしは、水都が好き。ずっとずっと、好きだった──。
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