第1章 絶交中の幼馴染

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 魅音は黙って聞いていたが、話が終わると、「具が少ない」と悲しそうな目で訴えた。 「おむすびの感想はいらないから。そうじゃなくて、その……水都はどういうつもりで、無理だってコメントを入れてきたと思う?」 「知らなーい。本人に聞けばぁ?」 「だってそうしたら、水都のSNSを覗き見していることも話さないといけないわけだよね? 聞けないよ」 「あ、そっか……」  魅音はなぜか、不自然に視線を泳がせた。焦っているように見える。 「どうしたの?」 「なんでもない!」    魅音は白々しい笑い方をすると、顔の前で両手を振った。 「まぁ、なんていうかー……、いろいろと誤解が生じるよね!!」 「んん?」 「なんでもないっ!! ひとりごとでーす! それよりもっ!!」  魅音は「それよりもっ!!」に力を入れると、手づかみで冷凍コロッケを口に放り込んだ。 「あ、コロッケ食べたっ!」 「うちのお腹は、おむすび二つじゃ満足できない。それよりもさ、水都くんはブリトーなんちゃらを奢ってくれたんでしょ? それに対して、シカトするのは人間としてどうかと思うよ。取り柄のない貧乏地味女子だなんて、誰も言っていない。悲劇のヒロインぶるのはやめなよ。神様は諫めてなんかいない。むしろ、応援している。それにさ、約束は守ったほうがいいよ」 「うん……」  ウジウジしている自分は嫌いだ。自分のことを好きになりたいのなら、細かいことに捉われずに、勇気を出さなくちゃ。  わたしは黄色い付箋紙に、『一緒に帰りたいです』と書いた。何食わぬ顔で水都の机の横を通り過ぎながら……サッと、水都の机の上に付箋紙を貼った。 (嫌われていないかな。大丈夫かな……)  不安なことばかり考えてしまう。  六時間目が始まる直前。水都がわたしの机の横を通った。青色の付箋紙が机に貼られる。 『僕も一緒に帰りたいと思っていた』  いかにも女子らしい丸文字のわたしと違って、水都の字は綺麗だ。止めや跳ねがしっかりしている。  自分の机に戻った水都と、目が合う。こそばゆくて、へへっと笑うと、水都もふわりと笑った。  放課後。わたしと水都は目で合図して、一緒に教室を出る。会話を交わすことなく、少し離れて歩く。たまたま近くを歩いていますよ、といった(てい)で。  昇降口を出ると、雨が強くなっていた。 「傘忘れた。どうしよう……」 「僕の傘に入りなよ」  水都が、グレー色の傘を広げた。
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