第1章 絶交中の幼馴染

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「これって……相合傘?」  わたしがなにげなく発した言葉に、水都は一瞬固まった。それから開いた傘を静かに閉じると、わたしに差しだした。 「ごめん! 迂闊でした。嫌だよね。傘、使って。僕は濡れても大丈夫だから」 「ええっ⁉︎ 水都が傘を使って。わたしは頑丈だから、濡れても風邪ひかない自信がある!」 「女の子を濡らすわけにはいかないよ。それに僕、昔より体力がついた。心配いらない」  凛々しい表情と、毅然と言い切る口調。  その昔、水都が母親に向かって「ボク、明日からこの幼稚園に通います。一人で来られます」とキリッとした表情で話したのと似ている。  普段はおとなしくても、いざというときは頼もしくなる性格は変わっていないらしい。そのことに嬉しくなる。  見上げる視線に気づいた水都が、わたしを見下ろして(なに?)と言いたげに眉根を寄せた。 「あ、ううん、なんでもない。水都の傘だもん。水都が使っていいよ」 「想像して。僕が傘を差すその横で、ゆらりちゃんはずぶ濡れ。他の人から、あの男冷たいって絶対に思われる」 「じゃあ、これも想像してみて。わたしが傘を差していて、水都はずぶ濡れ。あの女、傘に入れてあげたらいいのにって絶対に思われる」  わたしと水都を顔を見合わせると、二人同時にぷっと吹きだした。 「一緒に入ろう」 「そうだね。相合傘するのが一番いいね」 「僕と相合傘するの、嫌じゃない?」 「なんで?」 「だって、僕のこと……嫌いだよね?」 「誰が?」 「ゆらりちゃんが」 「えぇーっ⁉︎」  水都が差してくれた傘に入りながら、わたしたちは歩く。  校内では、他生徒の視線が気になった。だから、教室から出たときから昇降口まで、わざと距離を開けて歩いた。  けれど、歩くほどに学校から遠ざかっていく。しかも、グレー色の傘がわたしたちの顔を隠してくれる。  誰にもきっと、気づかれない。そのことが、わたしの心を軽くさせる。昔みたいに、明るく笑っている自分がいる。 「嫌いだなんて思ったことないよ」 「そうなの?」 「うん。むしろ、わたしのほうがダメ人間」 「なんで? ゆらりちゃんのどこがダメなの?」 「だって……」  この流れ。謝るのにちょうどいい。わたしは隣にいる水都を見上げると、「あのね、小二のとき……」と切りだした。  水都は傘を落としそうになり、慌てて握り直した。焦った声が降ってくる。 「その話は、明日、僕から話す」 「今、言いたい」 「ダーメ! 明日!」 「なんで? 明日はラッキーデーとか?」 「そういうわけじゃないけど……。明日、会う口実がなくなるのはイヤなので……」  意味がわからずに、キョトンとするわたし。水都は恥ずかしそうに額に手を置いた。 「休みの日に、会いたいです……」 「どうして?」 「私服姿で会うのって、特別な感じがする……って、ゆらりちゃん。意味、わかっていないよね?」 「うん。よくわかんない」  水都が休みの日に、わたしに会いたがっていることはわかる。けれど、どうして会いたいのかわからない。普通に考えると、好きだからってなるのかもしれないけれど……その答えに自信はない。  
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